軽度のナルシシストなら共感性を高めることができる

しかし相手が無症候性(潜在性)のナルシシストなら、見込みはある。「共感プロンプト」と呼ばれる手法を用いられるからだ。ナルシシストは共感性に乏しいが、研究によると、それは彼らの共感能力がゼロだからではなく、共感する筋力が弱いためだ。軽度のナルシシストの弱い共感筋を活性化し、時間をかけて強化するのは可能であることが、10以上の研究で明らかにされている。

しかし忘れてならないのは、私たちの取り組みは、彼らの認識にではなく、感情に働きかけるものだということだ。ナルシシストの目の前で人差し指を立てて振り、相手の間違っているところやこちらの望むことを伝えるのは、あなたをより効果的に操る方法を教えるようなものだ。

ここでの目標は、彼らの「もう1人の自分」として、あなた自身を相手のアイデンティティのなかに感情的に入り込ませること。必要となるのは、いわゆる批判的思考ではなく、批判的感情(感情を戦略的に利用すること)なのだ。

自分自身を愛しているので、自分に似ている人は傷つけない

「悪い」人から最良の部分を引きだすには、次の3つの角度から攻めよう。

1.類似性を強調する

デール・カーネギーが勧めていた方法と同じだ。「脅威を受けたエゴイズムと攻撃性の関連性を弱める」と題された研究では、この角度からの働きかけが、「もう1人の自分」という感覚を直接的に高めることが示された。

類似性を強調することは、実際、非ナルシシストよりナルシシストに対してのほうがより大きな効果を及ぼす。なぜか? この方法には、じつに巧妙な心理戦的柔道が組み込まれているからだ。

研究者たちは、「この操作は、ナルシシストの弱点である自己愛も利用する」と述べている。ナルシシストは自分自身を愛しているので、もし誰かが自分に似ているとしたら、どうしてその他者を傷つけることができるだろう?

この手法を用いた実験結果では、「被験者(ナルシシスト)が相手と重要な類似性を共有すると信じた場合には、自我脅威(自己評価が脅かされる)状況においてさえ、自己愛的な攻撃性は完全に弱められた」。しかも、大した類似性でなくても、たとえば誕生日が同じだとか、指紋の種類が同じだとかをナルシシストに伝えるだけでも効果があった。