カーネギーの『人を動かす』は科学的にも正しい

人間関係のバイブルと言えば、デール・カーネギーの著作だろう。『人を動かす』は、1936年に出版されて以来、3000万部以上を売り上げ、刊行から1世紀近く経った今でも、毎年25万部以上が売れている。

では、カーネギーはどんなことを勧めているのだろうか?

まず人の話を聞くこと、相手に興味を持つこと、相手の立場に立って話すこと、心から褒めること、相手との類似性を探すこと、衝突を避けることなど、当たり前のようでいて、誰もが日常的に忘れていることを推奨している。

しかし、『人を動かす』が書かれたのは、この分野での正式な研究が始まる前であり、その内容のほとんどは逸話的なものだ。カーネギーの助言は、現代の社会科学とマッチするのだろうか?

じつは、驚くほど一致する。アイオワ州立大学教授で、友情について研究するダニエル・フルシュカが指摘するように、カーネギーの基本的テクニックの大半は、数多くの実験によって検証されてきた。

たとえば、相手との類似性を探すという方法は、「もう1人の自分」という感覚を促すことが明らかになっている。誰かが怪我するのを見て、わがことのように思わず身をすくめたことはないだろうか?

神経科学者のデイヴィッド・イーグルマンがMRIで調査を行なったところ、こうした同情苦痛は、被害者が自分と似ていると認識したとき(たとえその分類が独断的でも)に増幅することが証明された。社会心理学者のジョナサン・ハイトも、「私たちは、“他人”と見なしている者には、それほど共感を覚えない」と述べている。

パートナーとの交渉会議
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カーネギーが間違えていた「たった1つのこと」

ただし、さすがのカーネギーも1つ間違っていた。『人を動かす』のなかの8番目の原則に、「相手の立場になって物ごとを見る」とある。心理学者のニコラス・エプリーはこの原則を検証し、歯に衣を着せずこう述べている。

「他者の身になり、その人の目を通して世界を想像する『視点取得』が、判断の正確さを高めるという証拠は、まだ1つも見つかっていない」。この方法は、効果がないだけでなく、意外と相手との関係を悪くしてしまうのだ。

カーネギーの本は、人間関係のごく初期の段階ではとてもためになり、また、ビジネス上の取引関係にも最適だ。しかしともすれば、詐欺師にとって格好の作戦帳にもなりうる。焦点が、相手と長期的かつ親密な関係を育むことではなく、戦術的に人から利益を得ることに置かれているからだ。

カーネギーは、「人間工学」や「人を喜ばせて、こちらの望むことをやってもらう」といった言葉を頻繁に使う。公平に言えば、たしかにカーネギーは、善意を持つべきだとくり返し言っている。だが空ろに響く。

社会学者のロバート・ベラは、「カーネギーにとって、友情は企業家の職業上のツールであり、本質的に競争の激しい社会で意思を通す手段だった」と述べている。もしあなたが血のつながった兄弟のように絆の深い友を探しているなら、『人を動かす』は役に立たないだろう。