新聞の値上げを知らない「定期購読者」

新聞業界に詳しくない「普通の人」にも話を聞いてみよう。そう考えて声をかけたのは、静岡県在住の主婦・E子さん(75)。私の母である。

私の実家では、父と母が結婚した当初、つまり50年以上も前から、朝日新聞を定期購読してきた。静岡県というと、ほとんどの家庭は静岡新聞か中日新聞をとっているのだが、我が家は例外的に「朝日派」だった。

そんな長年の朝日愛読者である母は、今回の値上げをどう思っているのだろうか? 感想をたずねると、驚くべき答えが返ってきた。

「えっ? 新聞代、いくらに上がるの?」

なんと、毎朝届いている新聞の購読料が4400円から4900円に上がることを知らなかった。朝日新聞の「購読料改定」は、4月5日の朝刊1面に社告として掲載された。それを見ていないというのだ。

だが、思い当たる節がある。私が年末年始に帰省したとき、新聞が配達された状態のまま、テーブルに置きっぱなしになっている光景を何度も見たことがあるからだ。

棚に積み上げられた新聞
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです

母は最近、iPadがお気に入りで、YouTubeのチャンネルを見るのが日課となっている。ニュースもYouTubeで知ることが増えた。「ニュースは新聞よりもネットのほうが速いからね」と母はつぶやく。

新聞は「最強のサブスクビジネス」

母と新聞の関係について、もう一つ、驚かされたことがある。

現在の購読料を正しく把握していなかったのだ。実際は1カ月4400円なのに「3500円くらいかと思ってた」と首をかしげている。

母は後期高齢者だが、まだ頭はしっかりしている。なのに、なぜそんなことになるのか。答えは「口座引き落とし」にあった。

かつては新聞代といえば、販売店のスタッフが各家庭まで集金にくるのが普通だった。しかしいまは、販売店の要請で、銀行口座の自動引き落としに移行している読者も多いようだ。

そのおかげで、自分が新聞の購読料として毎月いくら払っているのか、わからなくなってしまっていたのだ。

「4400円も払っているの?」とびっくりした母だが、「新聞がなくなると、ちょっと寂しい感じもするねえ」とも口にする。

半世紀以上にわたって続けてきた習慣をいまさら変えるのは難しいのだろう。おそらく、私の母と同じように、現在の購読料がいくらかを知らず、値上げも知らないまま、ずるずると「紙の新聞」にお金を払い続けている高齢者がほかにもいるのではないだろうか。

これぞ、定期購読(サブスク)ビジネスの強みともいえる。もし母と似たような高齢者が全国に多数いるのだとすれば、新聞社の経営はもうしばらく安泰といえるかもしれない。

だが、私から購読料の話を聞くと、母は少し気が変わったようだ。1週間後、母から「夕刊をやめて、朝刊だけにすることにしたわよ」と報告があった。

朝刊だけにすれば、値上げ後の購読料金は1カ月4100円で済む(母の地域の新聞販売店の場合)。とりあえず、それで様子をみるそうだ。