準強制性交容疑で書類送検されたが…

記者は取材活動への影響を考え、この件については我慢することにした。しかし、性暴力はこれだけでは終わらなかった。

その3日後、秘書は上田議員の政局的な動きを材料に記者を飲食店の個室に呼び出した。酒量は多くなかったはずだが、記者の意識は朦朧とし、気づいたらホテルの部屋に連れ込まれていた。そこで記者は秘書から強制性交の被害を受けた。

記者は翌日、弁護士などに被害について相談。会社にも伝えたうえで、4月に警察署へ被害届を提出した。

警察による携帯電話のやりとりや監視カメラの映像などの捜査で事実関係が確認され、届出から4カ月後の8月、秘書は準強制性交容疑などで書類送検された。

だが、その2日後に秘書が自殺。不起訴処分となってしまった。

こうした経緯で記者は、国家公務員である公設秘書が職務権限を乱用して強制性交に及んだこと、また、今回の被害は、上田議員の監督権限の不行使によって起きたとして、国に対して損害賠償を求め提訴することとなる。

性被害がなくならない3つの理由

今回の事件は政界で取材先が情報提供を口実にして、記者への性犯罪に及ぶ典型例であると言えよう。

こうした性被害は今に始まったことではない。2018年の福田淳一財務次官(当時)によるテレビ朝日記者に対する「胸触っていい?」などのセクハラ発言のほか、2022年5月には『週刊文春』が細田博之衆院議長の女性記者へのセクハラ疑惑を報じ、国会でも話題になった。

どうして、このような性被害が繰り返されるのか。

これには、取材先と記者という関係の構造的問題、今もなお世にはびこる強姦神話、そして、会社の不十分な対応――の3つがあると考えている。

①構造的問題

まず、取材先と記者という関係の構造的問題から見ていこう。

記者は現場で起きていることを取材し、報道を通して世に伝える存在だ。特に政治の世界では、政治家などの取材相手の動きに密着し、動向を探ることが求められる。

こういった話をすると、「記者は政治家と癒着している」という批判を受けることがある。「そもそも取材相手と酒を飲んでいることがおかしい」という指摘を受けることも多い。