「ハニートラップを仕掛けた」筋違いな記者批判も…

②強姦神話

さらに、こうした構造を肯定するかのような言説が社会で受け入れられていることにも問題があるだろう。

いわゆる「強姦神話」には、例えば「襲われるような状況に身を置いていた被害者が悪い」などというような荒唐無稽な主張がある。特に記者が被害に遭った場合には、「性的に誘って情報を取ろうとした」などと根拠もなく記者がハニートラップを仕掛けたかのように語られてしまう。

今回取り上げた件についても、週刊誌が公設秘書について家族思いな人間だったというエピソードを取り上げ、まるで秘書を自殺に追い込んだ原因が記者にあるかのような報道がなされている。

しかし、言うまでもなく悪いのは記者を襲った加害者である秘書である。

性犯罪全般に言えることだが、このように事実をゆがめ、被害者を加害者に、加害者を被害者に見せかけるような先入観を排除することが社会には求められている。

「抗議してほしい」会社に働きかけたが…

③会社の対応

そして、最後に指摘したいのが会社の不十分な対応だ。

先ほども述べたように、記者は取材先に対して弱い立場に置かれている。取材活動がこうした前提で行われている事実を考えれば、会社が記者を守るのは当然のことだ。

しかし、セカンドレイプともいえる今回の週刊誌報道について、会社は沈黙した。記者が「抗議してほしい」と働きかけたにもかかわらず、である。結局、週刊誌には記者個人として抗議文を送ることとなった。

この件について、民放労連は「所属社にはこの事件の本質を理解してもらいたい。対策が必要だった」としており、記者自身も「職場がもう少し安全になってほしい」とコメントを出している。

2018年の福田財務次官によるセクハラ発言問題でも、同じことが起きている。被害に遭った女性記者は上司に複数回にわたって相談していた。ところが会社が適切な対応を取ることはなく、記者は次官がセクハラ発言をした録音データを週刊誌に渡して報道してもらうという手段を取るに至った。

この際も民放労連は、「放送局の現場で働く多くの女性は、取材先や、制作現場内での関係悪化をおそれ、セクハラに相当する発言や行動が繰り返されてもうまく受け流す事を暗に求められてきた」と指摘。「このような歪みを是正しなければ、健全な取材活動、制作活動は難しくなる」と声明を出している。

報道が性被害による犠牲の上に成り立つなんてことがあってはならないし、取材においてそのような関係を求められるようであれば、健全な報道を続けることはできないだろう。