金融システム自体が崩壊しかねない

日経新聞の報道によると、地銀が保有する国債の含み損は、2022年12月末時点で1.4兆円。同年9月末から倍増した。日銀が長期金利の上限を0.25%上げただけで、損のこの膨らみようだ。

地銀の場合、単に評価損の問題だけではない。私が参議院議員の時に質問したら金融庁遠藤局長(当時)は地銀の保有債券は90%以上が短期所有目的であり時価評価の対象だと答弁された。

日銀が日銀検査でそう勧めているのだし、実際、すぐに日銀に売却するつもりで購入している(日銀トレードと言う)のも多いはずだから当然だろう。単なる評価損ではなく直接当期純利益を減らす実現損が膨らむということだ。

これ以上長期金利が上昇すると破綻リスクが高まる地銀も出てくるのではないか。3月に破綻した米国のシリコンバレー銀行(SVB)は貧弱なマネジメントをしていた個別銀行の問題だが、日本での金利引き上げは金融システム自体の崩壊につながる恐れがある。

生保も、日銀も多額の含み損を抱えている

長期金利がさらに上がれば、生保会社も安心はできない。

主要15社の生保が保有する国内の公社債は、約5兆5600億円の含み益から一転して約3600億円の含み損になってしまった(昨年9月末時点)。たった0.25%の長期金利上昇で5兆9200億円も評価額が下落したのだ。

そして長期金利のほんの少しの上昇で一番のダメージを被るのが日銀だ。

日銀の抱える評価損は昨年9月末の8749億円から12月末には8兆8000億円になった。3カ月で評価損が8兆円も拡大した。これでは植田総裁は長期金利をさらに大きくは上げられない。

信用を失い、日本国債は「ジャンク債」になる

さらに格付けの問題もある。

日本国債について、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が格付けを「シングルA+」に一段階引き下げたのは2015年9月のことだ。

以降も日本の財政事情は格段に悪化している。それにもかかわらず、ジャンク債レベル(BBB未満)まで引き下げられずに済んでいるのはなぜだろう。

ニューヨークとロンドンに本拠を置く民間格付け会社フィッチ・レーティングスで国債格付けを担当するクリスヤニス・クルスティン氏は、日本経済新聞紙上で「日銀の国債購入は格付けを支える要因の一つ」と明言した。財政事情がBBBのイタリアより、日本の格付けが高いのはYCCのおかげなのだ。

格付けは倒産確率だから、日銀が国債の爆買いをしている限り、国の資金繰りには問題がない。しかしYCCの解除となれば倒産確率は急騰する。格付けがイタリア以下(すなわちジャンク債)に陥るリスクも小さいとは言えなくなる。

国債の格付けがジャンク債以下になれば、他国が日本国債を購入してくれなくなるのはもちろん、金融機関や企業の債務もジャンク債扱いになるから基軸通貨のドル調達は難しくなるし、倒産続出で日本経済は大混乱にもなるだろう。

これがYCCの解除ができない理由のひとつである。