ユズ栽培は父親から息子へバトンタッチ

メディアドゥは2013年11月に東京証券取引所マザーズへの上場を果たした。22歳で起業した藤田は40歳になって大きな目標を一つ達成。いよいよ木頭の再生に本腰を入れるタイミングに差し掛かったわけだ。

最初からやることは決めていた。父親が敷いたレールを引き継ぎ、ユズの栽培・加工販売を行う農業生産法人「黄金の村」を設立したのだ。「黄金の村」は典型的な地域密着型ベンチャーだ。これによってイノベーター・堅太郎からイノベーター・恭嗣へのバトンタッチが完了した。

「黄金の村」のユズ工場
筆者提供
「黄金の村」のユズ工場

ここで注目すべきなのは行政を一切巻き込まず、100パーセント民間でプロジェクトが進んでいる点だ。堅太郎が立ち上げた旧木頭村の「木頭ヘルシック」は最終的に倒産している。ガバナンス欠如で行き詰まる第三セクターは多い。

バトンタッチに要した17年間――父親の死からマザーズ上場までの期間――が空白期間だったというわけではない。藤田はメディアドゥの事業拡大に向けて奔走するなか、毎年11月になると必ず帰省してユズの収穫を手伝っていた。将来ユズの事業を立ち上げるためにはユズについて自ら勉強しておかなければならない、との思いからだ。

「ユズの木1本1万円」を目指してサブスク

マザーズ上場を機に立ち上がった「黄金の村」は設立10年目を迎えた。目標も父親から息子へ受け継がれている。

木頭村役場に勤務していた父親・堅太郎は「ユズの木1本1万円」のスローガンを掲げ、見事に達成してみせた。ユズの木1本で農家に年1万円の収入をもたらしたのだ。

「黄金の村」の社長を務める息子・恭嗣も「ユズの木1本1万円」を目指している。木頭ブランドを確立して販路を拡大し、「1本2500円」の現状を打破したいと考えている。

その延長線上で彼が思い描いているビジネスモデルはIT起業家らしくユニークだ。常識破りと言ってもいいだろう。ユズのサブスクリプションサービスなのだ。

具体的には、

①支援者はふるさと納税制度を活用してユズの木1本に対して毎月1000円支払う
②年間200個の実のうち半分は支援者、残りの半分は農家へ渡る
③農家は年1万2000円の収入を得ると同時に出荷もできる

といった内容だ。

捕捉しておくと、月額払いではなく一括払いであれば支援者の負担は年1万円へ割り引かれる。つまり、農家の収入は年1万円で「ユズの木1本1万円」という形になる。

父親に続いて息子も「ユズの木1本1万円」を達成できるのかどうか。カギを握るのはブランドであり、「木頭はユズのパイオニア」という文脈は簡単には浸透しないだろう。しかし強みが一つある。BHAGである。(文中敬称略)

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