僕を肯定し続けてくれた母に感謝
もう一つ、「ビリー・エリオット」の体験で受験に役立ったことがあります。
それは1度目の受験で不合格だったとき。
舞台活動を休止し、受験勉強を本格化させたのは高2の秋。独学を積み重ねていく中で、成績は上向きになり、1年後の高3の秋には東大模試でC判定やB判定が出るようになりましたが、本番では不合格。でも不思議とダメージは大きくなく、すぐに気持ちを切り替えることができました。
というのも、僕は「ビリー・エリオット」の公演期間中に膝に痛みを感じるようになり、大阪公演の前に降板を余儀なくされたんです。中途半端な形で終わってしまい、悔しくて毎日泣きわめいていた時期もありました。僕にとっては大きな挫折だったので、それに比べたら一度の不合格は大したことではなく、まだチャンスはある、と思えました。大きなつまずきが、次のつまずきのクッションになってくれた。失敗や挫折を恐れず挑戦すれば、その経験は糧になるのだと思います。
1年間の浪人生活の後、僕は東大に合格できました。入学してみると、周りにいるのは物事に対する見識が深く、しっかりした人たちばかり。それまで僕はグループで活動していても「自分がしっかりしなきゃ」と思う場面が多かったんですが、自分だけが頑張らなくてもいいと思えて、心が落ち着く、幸せな環境です。
受験勉強中のことを振り返ると、我ながらストイックだったなと思いますが、それはやはり小さい頃から、興味のあるものに夢中になる僕を、母が肯定し続けてくれていたおかげだと思います。もし「それはよくない」「これをしなさい」「あなたには無理」と言われていたら、好奇心を抱くのはよくない、我慢することがいいという考え方になっていたでしょう。
小さい頃、絵本を読んでとせがむ僕に、母は図書館で何十冊も借りてきて読み聞かせてくれたし、ピアノを習いたいと言ったときも、中古のピアノを探して買ってくれました。東大受験もその延長で僕が興味を持ったことだったので、うまくいかないときにも母はそっと寄り添ってくれたのがありがたかったです。
将来についてはっきりと決めていることはありませんが、一つ夢見ているのが、起業してミュージカルをプロデュースすること。今の日本の演劇界では、俳優の人気が役の大小に関わる傾向がありますが、実力があるのにきっかけをつかめない俳優も少なくありません。そこで、完全に実力主義の舞台を作りたい。そのためにも大学では経済を専攻して、起業に役立たせたいと思っています。
2002年熊本県生まれ。17年、1346人の中からミュージカル「ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜」のビリー役に選ばれ、出演。現在、東京大学文科二類に在学中。