「他部署にいた頃にも、自社番組で地震関連のトピックを取り上げる際や発生した地震の解説が必要な時、『お前、詳しいだろう』ということで声がかかって、何度かカメラの前で喋った経験があったんです。また、私の予報センターへの異動と入れ替わりで何人かの解説員の方が他部署へ移られたので、成り行き上、番組に出る側に回ることになりました」

山口氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
同社所属の解説員には珍しく、山口氏は「ウェザーニュースLiVE」への出演専任。

「文系学部卒の気象好き」だからできる気象解説

通常、解説員は人事管理や予報技術開発など予報センター内で他にも職務を持っているが、山口氏は番組出演専任。“気象の語り部”一本でメシを食う者として、心掛けていることがある。

「そもそも私は、ウェザーニューズに『文系学部卒の気象好き』として入社しました。もちろんプロとして必要な知識は備えていますが、ずっと専門に勉強してきた人に比べれば、数式を使ったりする理系的な気象学の方面には強くない。だからこそ番組中では、気象状況をきちんと把握した上で専門的すぎる内容は口にせず、わかりやすく平易な言葉で伝えるようにしています。視聴者の方に理解していただいてこその天気予報ですから」

解説員としてのもうひとつの特徴は、過去の類似した気象・地象事例を紐解きながら、現在の状況を浮き彫りにしていく点にある。

「同じような気圧配置とか同じような規模の地震があった時、私は当時こういうことが起きました、今回もまたこういうことが起きるかもしれませんという伝え方をするんです。専門用語をずらずら並べて『予断を許さない状況です』と言うより、過去の似た状況を併せて紹介し、皆さんの耳に入りやすくしたいと意識してます」

山口氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
視聴者が理解しやすい、平易な言葉での気象解説を心がけているという。

2つの大地震報道で生かされたデータ

彼の真骨頂が生かされたのが、2011年の東日本大震災と2016年の熊本地震の際の放送だった。

東日本大震災時は道路気象の担当でありながら、地震に関する該博な知識を買われて速報番組に丸1日以上出ずっぱりで登板。

地震発生の初報から約1時間後、釜石で4.2mの津波第1波が観測された段階で、どのテレビキー局も事実の伝達のみに追われていた中、彼は死者・行方不明者合わせて3000人超を出した1933年の昭和三陸地震を例に引き、状況の深刻さを伝えている。

「第1波で4.2mなんて、過去になかった津波の値でしたから。ただ実際には、三陸地震のはるか上を行く大被害が出てしまったのですが……」

熊本大地震では当初、4月14日に起こったマグニチュード6.5のものが本震と想定されていた。

しかし山口氏は翌15日にも同6.4の地震が観測されたことに着目し、これは14日のものの余震ではなく、続いてより大きな地震が起こる可能性を番組内で指摘。結果的に、16日未明に起こった同7.3の本震を予言した形となった。気象庁から、14日の方が前震だったと考えられるとの訂正見解が発表されたのは、16日の本震が発生した後のことだった。