<海外のTikTokで、70年以上前の太宰治作品が話題に。実際に読み感銘を受けたという若いユーザーが続出している:青葉やまと>
スマホ画面にTikTok
写真=iStock.com/5./15 WEST
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アメリカの若者たちのあいだで、太宰治が遺した文学作品がブームとなっている。火付け役はTikTokだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は3月5日、「太宰治がTikTokの力を借り、新たなファンを獲得し続けている」との記事を掲載した。動画で知った太宰作品を実際に読んで衝撃を受け、「人生観が変わった」というユーザーが続出しているという。

あるTikTokユーザーは、読み終えたばかりの『人間失格』のペーパーバック本の動画をTikTokに投稿し、「とても悲しい」と読後感を語っている。本の随所に貼られた付箋は「共感できること」や「名言やあとで考えたいこと」などに色分けされており、相当に入れ込んでいる様子が伝わる。

記事によるとTikTokでは、悲壮感漂うBGMに乗せて太宰作品を紹介する動画が増えているという。同紙は「こうした動画のコメント欄には若い人々が溢れ、この本に夢中だと宣言し、同作がものの見方を変えたと絶賛し、あるいは母に買ってくるよう頼んだので来たらすぐ読みたいと興奮気味に語っている」と報じている。

読書ブームに沸くTikTokで、75年前の太宰作品にスポットライト

ネットでの流行を受け、太宰作品は実店舗でも大きく扱われるようになった。大手書籍チェーンの米ブックス・ア・ミリオンは店舗で平積みし、老舗出版社のニュー・ダイレクションズは75年も前に刊行された太宰作品の増版や新訳版の製作に追われている。

少し前から海外では、「#BookTok」が人気のタグとなっている。読書に興じている日常のワンシーンや、おすすめの小説などを紹介する動画が視聴者の興味を惹いてきた。読書離れが叫ばれる現在、出版界や書店の希望の光となっている。太宰作品もこの#BookTokの流れにうまく乗ったようだ。

なかでも読まれている代表格が、1948年出版の『人間失格』だ。主人公とされる大庭葉蔵は、人前では努めて明るい人間を演じながらも、内面では自身の犯した過ちへの悔いが消えない。同作は、そうして心に迷いを抱え、自身に人間失格の烙印を押す男の生き様を描く。英題は『No Longer Human(もはや人間ではない)』と衝撃的だ。日本での初版から10年を経て、1958年に英訳版が出版された。

人生への悲観的な視線が、現代の若者の琴線に触れたようだ。TikTokでは「私は太宰治に書かれた」というジョークが流行し、自身の悲劇的な人生を語る自虐表現としてよく見られるようになった。