とどめはオールドパー2本

これぞと決めたら浮気をしないのが角栄流。そして、それは宴席でも同じだ。酒飲みの多くはビールから始まり、日本酒やウイスキーと移る人も少なくないが、角栄は会食などで招かれた場合を除けば、1杯目から同じ酒を飲み続ける。

こんな話がある。北海道で角栄が講演し、その後の打ち上げで一同たらふく飲んだ。お開きになった後、地元選出の衆議院議員の箕輪登は角栄に宿の部屋に呼ばれる。飲み足りないというわけだ。

角栄は部屋で秘書に鞄を持ってこさせると、そこから「オールドパー」のボトルを取り出す。空にしてしまうと角栄は鞄を再び開け、2本目を取り出し、2人で2本を飲み干してしまった。宴会でさんざん飲んだ後にボトル2本を飲んだので箕輪は酩酊したが、角栄は平然としていたという。

上座には絶対座らない

自分の酒を飲む場合はこだわりが強かったが、会食では酒を選ばなかった。若い頃は1日10件以上の宴席に顔を出すことも珍しくなかった。食事に手をつけず、ひたすら飲み、しゃべり、はしごした。

大臣になってからもかけもちは当たり前だ。

通商産業大臣(現・経済産業省大臣)時代は週3日は1日に3つの宴席をかけもちしていた。午後6時、7時、8時のトリプルヘッダーである。ひとつの宴席を1時間弱で切り上げ、3つの席を回るのだ。

主賓の角栄がひとこと挨拶して会は始まるが、乾杯の酒にこだわりはなかった。用意された食事には一口もつけずに宴席にいる10人前後のひとたち一人ひとりに自ら近寄りお酒を注ぎ、注がれ、時間が許す限り回る。

角栄は常に自ら動いた。役所の幹部職員との宴席でも自ら動き、一人ひとり分け隔てなく酒を注いだ。

酒と乾杯
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えらそうに「おれが主賓だぞ」とばかりに上座に座って、お酌をされるのを待っていたら、相手も恐縮するが、自ら懐に飛び込むため、相手の好感度も高まる。

胸襟を開いて情報交換が円滑になり、生の情報をつかめる。これを1日に3席こなすのだから、無数の杯を一晩で重ねる。

自分は飲まずにいかに人に飲ませるか。角栄は数え切れないほどの酌を交わす対策として、店側にあらかじめ小さい杯を用意させていたというからさすが宴席の達人である。