戦争によるPTSDも実は強度の低い持続的なストレスから?

戦争によるストレス障害についても、実はその多くが、ローリスクストレッサー(強度の低い持続的なストレス)によるものであると、自衛隊で精神医療に携わってきた医師の福間詳氏は述べています。福間氏はいまだに強度のストレスばかりがPTSDの原因とされる精神医学の現状について違和感を表明しています(福間詳『ストレスのはなし』中公新書)。

軍服を着た兵士が破壊された家の前に立つ
写真=iStock.com/Diy13
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ライオンに襲われても胃潰瘍にならない動物たちも、長期にわたるストレスを受けると、それが強度の面で些細であっても場合によっては命に関わるような結果になり得ます。先にご紹介したストレスの基本モデルにおいても、長く続くと「疲弊期」に入ります。

ストレスで真に問題なのは強度ではなく生体システムの裏目になるか

このように想定外に長く続くストレスは、「時間の長さ」も問題なのですが、それだけではありません。結果として、長さが生体というシステムの前提、ゲームのルールを変えてしまうのです。短期であれば最適化されていて問題なく見えるものについても、前提が変わることで様々な問題を浮かび上がらせてしまいます。

みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)

ストレスというと強弱が注目されがちですが、システムの想定内であれば動物は意外なほど頑強です。しかし、キリンの敏感さのように短期のストレスへの最適化が別の状況では裏目に出ることもあります。人間であれば、想像力といった知能の高度化が状況によっては精神的なストレスの原因ともなります。

ストレスで真に問題なのは、生体のシステムにとって予期せぬもの、システムの裏目となるか否かではないか、と考えられます。ストレスの強さや長さはそれを顕在化させる要素の一つと考えるとわかりやすいかもしれません。

ラットによる実験でも、予測できるものは、それが死をもたらすような強度のストレスであっても負荷は軽減され、予測ができないことは大きな負荷となることが明らかになっています。予測ができるとは、一貫性や秩序があるということですが、生物にとっては安心・安全に関わる非常に重要な変数(要素)であることがわかっています。