※本稿は、みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。
大人になってからのストレスもトラウマになる
「発達性トラウマ」は“子ども時代に負ったトラウマ”のことです。大人が悩む生きづらさの背景を調べていくと子ども時代に負ったトラウマ(発達性トラウマ)が原因であるということがよくあります。その際は、「複雑性PTSD」とするか、「発達性トラウマによって生じた症状」として見立てられていきます。
「大人になってから受けたトラウマはどうなるの? 同じようにトラウマになるのでは?」と気になるかもしれません。もちろん大人になってからのストレス、例えばハラスメントやDVなどによってもトラウマになり得ます(前記事の眞子さまのケースはマスコミや世間などのバッシングから複雑性PTSDと診断されました)。
ストレスが強い場合は、ADHD、発達障害と疑われるような能力低下を引き起こすこともあります。
まだ研究が途上で、定義が実際のケースに追いついていない部分もあり、トラウマについて正しく理解すればするほどに定義と実際との違いに混乱を感じることがあります。大人でも子どもでも強い、あるいは持続的なストレスを受けたらトラウマになり得る、という理解で間違いはありません。ただ、臨床においてご相談いただくケースでは、子ども時代のトラウマに原因を持つということがとても多いです。
また、やはり、子ども時代に負ったトラウマのほうが大人時代のものに比べてもダメージが大きいというのは実感としても感じます。
トラウマの本質は「自己の喪失」である
トラウマによって様々な症状が引き起こされますが、その中でも核心となるものを踏まえる必要があるということです。核心を踏まえると個別の症状についても理解しやすくなります。
では、トラウマの核心は何か? と言えば、それは「自己の喪失(主体が奪われること、失われること)」です。トラウマを負うと、フラッシュバックや過覚醒といった問題のみならず、自分が自分のものであるという根本的な感覚が失われてしまうのです。特に発達性トラウマなど慢性的なトラウマではそうした感覚が顕著です。
ジュディス・ハーマンも、「外傷は被害者から力と自己統御の感覚を奪う」(『心的外傷と回復』)とし、ヴァン・デア・コークも「トラウマは、自分で自分を取り仕切っているという感覚を人から奪う」「『セルフ(自分そのもの)』によるリーダーシップ」と呼ぶものを奪う」(『身体はトラウマを記録する』)と述べています。