「私たちの歴史を知ってもらうためなら、よろこんで協力します」

私は仲間とともにこの1年、ウクライナの「百年」にフォーカスした番組を制作してきた。

百年前からウクライナ人音楽家たちが神戸に避難してきた物語を掘り起こした「亡命ウクラニアン 百年の記憶」(去年5月放送)。

そしてETV特集「ソフィヤ 百年の記憶」(3月18日 23:00~)では、ソフィヤさん一家のファミリーヒストリーを通して、ウクライナの百年の歴史に迫っていく。

「私たちの歴史を知ってもらうためなら、よろこんで協力します」。番組には、そう言って協力してくれたウクライナ人たちの「思い」が、図らずも取り込まれていった。

たくさんの涙が流れた、今まで経験したことのない不思議な制作プロセスだった。

100年の悲しみが込められた「チョム」

たとえば、編集用に音声素材として、ウクライナ語の「チョム」(=なぜ? の意味)を収録しようとした時。このわずか一言を収録しに来てくれたウクライナ人女性。スタジオに入ると、突然、涙を流し始めた。聞けば、かつてシベリアに強制移送され、その後処刑された家族のことを思い出したという。

「チョム」という言葉を収録しに来てくれたウクライナ人女性
写真=NHK
「チョム」という言葉を収録しに来てくれたウクライナ人女性

なぜ殺されなければならなかったのか? なぜいま戦争をしなければいけないのか? 100年の悲しみが込められた「チョム」となった。

過去の再現シーンでエキストラ出演してくれた女性も、やはりソ連に殺された先祖がいるという。自然に涙が流れ、声が震える。みなプロの役者などではなくたまたま参加してくれたウクライナ人たちだ。すべてがドキュメンタリーとなり、どんな演技力でもかなわない本物の映像になっていった。どの一家にも、それぞれの悲劇がある事実に揺さぶられた。

番組で大切な意味をもつ歌も見つかった。ウクライナの民謡『赤いカリーナは草原に』。ソビエト時代は「禁じられた歌」で、かつては歌うだけで身の危険があった。

100年前に歌われるようになった、悲劇の歴史を象徴するこの歌を、ウクライナ人女性が思いを馳せ、歌った。

番組のために「赤いカリーナは草原に」を歌ってくれた大阪在住のウクライナ人NASUさん
写真=NHK
番組のために『赤いカリーナは草原に』を歌ってくれた大阪在住のウクライナ人NASUさん

終わりの見えない戦争。ウクライナ人たちは、100年の歴史を背負いながら、いまも闘っている。

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