スマホが使いやすくなったぶん、配慮が疎かに

記事は「以前よりは、デイパックやリュックサックが増えています。当社の小売店に来られるお客さまからは『外出先でも、スマホに仕事関係のメールが来るし、初めて行く場所はスマホの地図を頼りに歩くので、両手が空くリュックは使い勝手がよい』という声もあります」という吉田カバン担当者のコメントを紹介している。

クールビズの定着などビジネスシーンのカジュアル化や、モバイルパソコンやタブレットを持ち運ぶ機会の増加など流行の素地はさまざまだが、やはり両手が空くためスマホを使いやすいという点が大きいように思う。そうなると、手元のスマホに夢中になって背中を疎かにする人に冷たい視線が集まる光景が浮かんでくる。

ラッシュアワーの品川駅のホーム
写真=iStock.com/ooyoo
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そもそもリュックは手荷物の中でも特にかさばる存在だ。一般的に使われる機内持ち込み可能サイズのスーツケースは「3辺の合計が115cm以内かつ3辺それぞれの長さが55×40×25cm以内」、つまり厚さは25cm以下である。

対するリュックの厚みは、筆者のAmazonアカウントでリュックサックと検索し「おすすめ」に表示された5件から拾ってみると、20cm、20cm、16.5cm、13cm、21cmだ。スーツケースを抱えて持つ人はいないが、リュックは身体で最も厚い胸周りに装着する。

関西は定期輸送人員が90%程度まで回復

鉄道は冬に遅れやすくなるが、これはコートなどを着込むことで一人あたりの体積が増える「着ぶくれ」で混雑が悪化するためだ。リュックは着ぶくれどころの話ではない。成人の胸板の厚さが22cm程度であることをふまえれば、リュックを背負った人は2人分の厚みがあることになる。

意識が届かない背中より前に抱えるほうがいいのは間違いないが、後ろであれ前であれ、胸元にこれほど厚みのあるものを置くのは混雑にとって悪影響でしかない。

ただ鉄道の混雑事情は2018年以降、大きく変化している。言うまでもなく新型コロナである。国土交通省の調査によれば、東京圏の朝ラッシュ時間帯主要路線混雑率(ピーク1時間平均)は2019年の163%から2020年は108%、2021年は107%へ、関西圏は126%から103%、104%へと大幅に減少した。

期せずして混雑解消が実現したことで、2020年の迷惑行為ランキング(総合)では「荷物の持ち方・置き方」は前年の3位から6位に後退し、割合も前年比11ポイント減の21.0%となった。2021年は同6位ながら2ポイント減の19.0%だった。

鉄道経営に甚大な影響をもたらした新型コロナだが、今年度に入り徐々に日常を取り戻しつつある。関東・関西大手民鉄14社の第3四半期(10月~12月)の輸送人員は、2020年がコロナ前の75~80%程度、2021年度は80~85%程度だったのに対し、2022年度は85~90%の水準まで回復。定期輸送人員に限れば、首都圏よりテレワーク実施率が低いこともあり、関東が80~85%程度なのに対し、関西は90%程度まで回復している。