「迷惑行為ランキング」で手荷物マナーが1位に

筆者は恥ずかしながらこの変化にまったく気付いていなかったので、どのような事情があったのか東京メトロに聞いてみた。すると、マナーポスターを担当する本社広報部と公益財団法人メトロ文化財団の打ち合わせの中で「車内が混雑してきたときは前に抱えても邪魔」との問題意識があがり、すべての時間帯で推奨できる「足元に持つ」形に統一したという。

関西鉄道協会も東京メトロもアプローチはやや異なるが、本来は「周りへの配慮」を伝えたいところ、荷物の持ち方ばかりに注目が集まってしまうことから、シンプルなメッセージに改めたという点が共通していると言える。

鉄道各社にとって手荷物マナーはどの程度の位置付けなのだろうか。全国の民営鉄道が加盟する日本民営鉄道協会は2000年以降、乗客に対して利用時に迷惑と感じる行為について「駅と電車内の迷惑行為ランキング」を発表している(3つまで選択可)。

このうち「荷物の持ち方・置き方」について、2012年から2018年の推移を見てみると、8位(17.0%)、6位(20.5%)、6位(22.3%)、6位(23.9%)、4位(27.3%)、3位(29.8%)、1位(37.3%)と右肩上がりにランクアップし、ついに2018年に1位になった。

「スーツ姿にリュック」の流行が要因か

2018年から関東大手民鉄9社(東急、小田急、京王、京急、東武、西武、京成、相鉄、東京メトロ)と関西大手民鉄5社(近鉄、南海、京阪、阪急、阪神)の地域別ランキングが発表されているが、同年の「荷物の持ち方・置き方」は関東1位、関西2位だった。

なぜ2010年代に手荷物マナーが注目されたのか。ここにはいくつかの要因が考えられる。そもそも車内がすいていれば(手回り品として認められた範囲であれば)どのような大きさの荷物であっても問題ないが、混雑が激しくなるほど小さな荷物でも影響は大きくなる。混雑という観点で見れば、大手民鉄16社(前記14社と名鉄、西鉄)の輸送人員が2011年の93億9000万人から2018年の105億1000万人まで高い伸び率で増加したことも背景のひとつだろう。

ただそれ以上に影響していると思われるのがリュックサック(バックパック)の流行だ。2018年1月23日付プレジデントオンライン〈なぜ“スーツにリュック”の人が増えたのか〉は、「『スーツ姿にリュックを背負って電車通勤する人が増えた』――と初めて記事に書いたのは2016年の冬だった。これ以降もリュック姿のビジネスパーソンは増え続けているように感じる」との書き出しで始まる。2016年以降、ランキングで「荷物の持ち方・置き方」が増加したことと、リュックの流行到来は無関係ではないだろう。