企業の立ち直りを早める米国の政策
今ここで見たように、米国では景気が悪化するとひと月で10%も失業率が増えるということが起こります。日本では、せいぜい0.1か0.2%程度の変化です。
こういう違いがなぜ起こるのかと言えば、それは解雇についての法制上の違いです。どちらが良い悪いということではなく、米国では比較的簡単に人を解雇(レイオフ:一時帰休)させることが可能なのに対し、日本では解雇はよほどの事情がない限り認められません。
米国では、解雇された人たちに対し失業給付が政府から支給されます。通常は賃金の6割程度ですが、2020年のコロナショックの時には、トランプ政権の大統領選挙への思惑もあり、ほぼ100%支給されました。他方、日本の場合には、皆さんも覚えておられると思いますが、雇用調整助成金などが「企業に」配られます。
言い方を換えれば、米国では余剰となった人員を企業が抱えるのではなく企業外に出し、それに対し政府が保障するのですが、日本では企業で抱えたままにして、企業に対し政府が助成するやり方です。欧州でも日本に似た方式がとられます。
先ほども述べたように、これはどちらが良いという問題ではなく、そういう方針、やり方なのです。日本の場合、長年、終身雇用を前提とした雇用に対する考え方などがベースにあるからです。
違う視点から見れば、米国では企業がしんどくなりかけた時には、とにかく企業の負担を小さくし、戦略のフリーハンド(自由度)を高めることができると言えます。日本の場合には機動力がやはりその点落ちます。社内に余剰に抱えた人員をどうするか、場合によっては他産業の他社に出向させるといったことにもかなりのエネルギーを使わざるを得ません。
最近米国では、フェイスブックやアマゾン、ツイッターなどの大規模な解雇が話題となりましたが、米国企業の場合には、解雇を公表すると、今後の業績回復が期待できるということで株価が上がることもあります。
一方、日本の場合には、よほどしんどくならない限り解雇は行わないので、解雇は業績の悪さを露呈するということにもなりかねません。この解雇されにくい労働環境は社員側からすると安心感がありますが、企業経営上はなかなか厳しいものがあります。ただし、今のように景気が回復基調にあるときには、経験のある従業員をすぐに使えるというメリットはあります。
他方、米国の場合には解雇されるリスクが高いため、従業員は他社でも通用する能力を磨こうとする傾向が強まります。一方、日本では、解雇が難しい上に、終身雇用の慣行が残っているために、他社でも通用する能力を身に付けようとするインセンティブは米国より落ちると言えるでしょう。
低金利や補助金などで日本では企業が甘やかされてきたことで、ゾンビ企業の延命が大きな問題となっています。ゾンビ企業はじめ従業員が他社で通用する能力を持たないことも、この30年日本が低迷している大きな理由ではないでしょうか。