ダイナミックな変化ができる米国経済
ここまで雇用の数字を中心に短期的な米国経済の状況を述べましたが、別の視点で見ると、雇用の数字からは米国経済には変化に即応するダイナミックさがあることが分かります。変化がゆっくりな日本と比べるとそれは明らかです。
先ほど、2020年の米国の消費者物価が年初には2%台だったのが、5月には0.1%まで低下したことを述べましたが、ちょうど同じ頃、雇用には激震が走っていたのです。
図表2は、その頃の米国の失業率と非農業部門の雇用の増減数、そして日本の失業率を載せてあります。これを見ると、日米の違いは明らかです。
少し詳しく見ていきましょう。まず、米国の失業率ですが、コロナが世界的に蔓延し始めた2020年1月の失業率は3.6%でした。2月は3.5%とやや低下しました。米国では3%台の失業率は、ほぼ完全雇用の状態だと言われています。「3%も失業者がいるのになぜ完全雇用?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは失業率(完全失業率)の定義からくるものです。失業率の定義は、「働く意思のある人のうちで働いていない人の割合」を言います。例えば、完全に引退してしまった人は、この定義上は、失業率を計算する上での分子、分母ともに入らないわけです。
逆に言えば、働きたいけれども職がない人のみならず、転職待ちをしている人も失業率の数字に入ります。米国は日本よりも雇用の流動性が高いので、転職待ちの人も多く、その人たちが失業率にカウントされるのです。
ですから、米国で3%台の失業率というのは、ほぼ完全雇用の状態と見ていいのです。ちなみに、日本では2%台ならば、ほぼ完全雇用と言えます。
2020年は2月までの失業率の数字は抑えられていたので、当時のトランプ大統領は新型コロナウイルスが米国経済に与えている影響はそれほどでもなく、そのためコロナについてかなり甘く見ていたということも想像できます。
それが、3月になると失業率が4.4%まで上がります。同時期の日本の数字は、2月が2.4%、3月が2.5%ですから0.1%の上昇です。米国では、ひと月で失業率が0.9%上昇したのです。
ひと月で0.9%上昇ということは、日本の数字に慣れている私には結構大きなショックでしたが、翌4月の米国の失業率が発表された時には単なるショックではすまず、驚愕しました。最初は、統計の発表者が数字を間違ったと思ったほどです。なんと、14.7%です。ひと月で10%以上も上昇したのです。働いている人の10人にひとりがわずかひと月の間に職を失ったのです。同時期の日本の失業率の変化はわずか0.1%です。
非農業部門の雇用の増減数もひどく、4月ひと月でなんと2051万人の雇用が失われたのです。米国では、経済が巡航スピードの状態では、年に約200万人前後の雇用が創出されますが、この時はコロナの影響で、ひと月で2000万人を超える雇用が失われたのです。米国の人口は約3億3300万人ですが、それを前提にしても驚くべき数字です。まさに雇用の状況を見ると「コロナショック」が起こったわけです。