ずっと遊んでいる司会者
そして1980年代には、テレビにも同じ精神が一気に浸透するようになる。1980年代初頭の爆発的な漫才ブームが端緒となった。そこからテレビの中心は笑いになり、バラエティ番組がテレビを牽引するようになっていく。
そして1982年、タモリもお昼の帯バラエティ「森田一義アワー 笑っていいとも!」(フジテレビ系)のMCに抜擢され、ビートたけし、明石家さんまとともにテレビの中心を担うひとりとなっていく。
テレビで遊ぶという点では、もちろん「いいとも!」もそうである。てきぱきと仕切ることなどにまったく興味のなさそうなタモリの司会は、いわばずっと遊んでいる司会だった。それが、32年間番組が続いた秘訣でもあっただろう。
いまのバラエティ番組に受け継がれたもの
ただ、タモリらしいパロディや趣味的なノリという点では、1981年に始まったタモリがメインのバラエティショー「今夜は最高!」(日本テレビ系)や「いいとも!」とほぼ同時に始まった「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)のほうが顕著だった。
特に「タモリ倶楽部」では深夜ならではの自由さもあって、タモリも演じた「ドラマシリーズ 男と女のメロドラマ 愛のさざなみ」というメロドラマのパロディ、さらにはタモリの趣味を生かした鉄道企画、あるいは昭和歌謡の発掘企画など、マニアックかつ知的な「タモリのオールナイトニッポン」のテイストがより色濃く引き継がれた。
現在のバラエティ番組を見ても、こうしたテイストが深夜か否かを問わず定番化していることは言うまでもないだろう。
とりわけ、世のオタク化の波もあって、マニアックな趣味ネタはバラエティに欠かせないものになっている。たとえば、トークバラエティ番組「アメトーーク!」(テレビ朝日系、2003年放送開始)でも「鉄道芸人」のような企画が成立するのは「タモリ倶楽部」が切り拓いた道があるからだと思えるし、タモリ自身もまた街ブラ教養番組「ブラタモリ」(NHK、2008年放送開始)でまだまだその方面での主役だ。
ナンセンスやパロディという点では、テレビ番組ではなくネットになるが、ロバート・秋山竜次がさまざまなジャンルの架空のクリエイターになりきる「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」などに、タモリの「思想模写」にも通じるものが感じられる。もちろん「空耳アワー」をはじめ、「タモリ倶楽部」の企画のほうもまったく古びてはいない。
こうして振り返ってみても、3月末での終了が決まっている「タモリ倶楽部」、そしてその原点とも言える「タモリのオールナイトニッポン」のことは、ともに放送史に残る番組としていつまでも記憶にとどめておくべきに違いない。