2時間「ソバヤ」を歌い続ける
「タモリのオールナイトニッポン」と言えば、タモリが自ら作詞した「ソバヤ」も懐かしい。元々は、タモリのアルバム『TAMORI』(1977年発売)に収められたものである。
アフリカの民族音楽のパロディで、タモリによる動物の鳴き真似から始まり、意味不明の歌詞をタモリが歌い出す。
そこに「ソバヤ ソバ~ヤ」という合唱の合いの手が入る。ただ、時々「フロヤノニカイデ」(風呂屋の2階で)のような日本語として聞き取れるフレーズもさりげなく挟まれたりして笑ってしまう。
要するに、タモリ得意のでたらめ外国語と「空耳」を合体させたものである。
この「ソバヤ」は、「タモリのオールナイトニッポン」のエンディングに使われていた。また4時間生中継の特番があったときなどは、ジャズの山下洋輔トリオに渡辺貞夫、さらに平尾昌晃も加わるなか、後半の2時間「ソバヤ」をその場の全員で歌い続けるという、狂乱とでも言うしかない出来事もあった(片田直久『タモリ伝』、85ページ)。
ラジオ番組において音楽セッションで盛り上がるケースはほかにもないわけではない。むしろラジオの定番でもあるだろう。だがこの場合は、パロディであるにもかかわらず、みんなで盛り上がれるちゃんとした楽曲になっているところに、音楽通でもありパロディの達人でもあるタモリの真骨頂がある。
「なんでも遊びにしてしまおう」という精神
そのようになんでも盛り上がってしまうところは、大学のサークル的なノリだったと言ってもいい。先ほど「タモリのオールナイトニッポン」の初代ディレクターが早稲田のモダンジャズ研究会の先輩だったことにふれたが、番組全体の醸し出す雰囲気も大学のサークルのそれに似ていた。
同じことは、番組のイベントとして企画された「中洲産業大学夏期講座」などにも感じられる。赤塚不二夫や山下洋輔などを講師に招いて催された講座で、300人の定員に対して約2万5000人もの応募があったという(同書、85ページ)。「中洲産業大学」は架空の大学で、当時タモリがその大学の教授という設定でよくネタを披露していた。
つまり、こちらは大学そのものをパロディにしてしまおうというわけである。そして世の若者は、やはりパロディであると知りつつそれに乗っかり、タモリとともに盛り上がろうとするようになっていた。
このように「なんでも遊びにしてしまおう」という精神こそが、「タモリのオールナイトニッポン」をずっと貫いていたものだった。