社会常識は常にアップデートされている

物理学者のアインシュタインは、「常識とは18歳までに身につけた先入観のコレクションである」と言っています。なかなか辛辣しんらつな表現ではありますが、真理を突いています。「昭和の時代はあんなことやこんなことができて良かった」という話はたしかに刺激的で面白いですし、私も好きです。ですが、それはもう気分だけなのです。実際には、社会は常識がどんどんとアップデートされています。

テレビ番組に関する苦情や放送倫理の問題に対応する第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)は、2021年8月24日に、「痛みを伴うことを笑いの対象にするバラエティー番組を審議の対象にする」と表明しました。また、出演者の芸人の体型的な特徴をいじったりするのにも、芸人本人がどんどんやってほしいと思っても、視聴者が不快に思わないか配慮しなければならなくなりました。

こうした配慮はテレビ業界の中だけの話ではありません。私たちも日常的に行わなければならないことなのです。そう考えると今の時代、他者へさまざまな配慮をするための想像力は必須の能力ということが分かります。

想像力を働かせられる人にはより多くの選択肢が見える

だから、私たちは想像力をもっと意識的に働かせなければなりません。何か特別な架空のフィクションをうまく作る能力だけが想像力では必ずしもありません。何を想像するのか、それが日々、本当に問われています。

想像力を働かせる例を挙げてみましょう。

歩道を歩いていたら、道路に小さな窪みがありました。たった5センチぐらいの窪みです。これを見て、あなたは何を思うでしょうか。

アスファルトに開いた穴
写真=iStock.com/kozmoat98
※写真はイメージです

その窪みをまたいでそのまま通り過ぎる人、これは想像力を使っていない人です。

想像力のある人は、この窪みを見つけて、お年寄りだと足が引っかかって転んで骨を折るかもしれない、と想像することができるでしょう。あるいは、車椅子の人がタイヤを引っかけてしまうかもしれないと想像することもできます。

そこからさらに想像力を進めていくと、窪みを埋めるとか、注意書きの看板を立てるとか、対応の仕方にまで考えが及ぶでしょう。

世の中には、俗に言う「気づく人」と「気づかない人」がいます。その違いは何なのかと言うと、想像力を使っているかどうかの違いなのです。

私たちの日頃の何気ない行動も、想像力に支えられています。想像力を働かせることによって、この先どうなっていくのかという予測ができると、現在の行動の選択肢が増えます。「気づかない人」には見えない選択肢が、「気づく人」には見えるのです。