同性愛者が登場する映画でその人の気持ちを学ぶ

では、自分とは異なる他者への想像力を高めるにはどうすれば良いでしょうか。すでにインタビュー記事や番組、動画などを紹介しましたが(『もっと想像力を使いなさい』)、「自分と異なる立場の人を知る」には、映画を観たり、小説を読んだりすることもオススメです。

私は映画を1日1本観るようにしています。毎日違う人の人生を生きるような体験ができるからです。

例えば、同性愛者が登場する作品を観れば、同性愛者はこのようなことを考えているのか、こういう気持ちを持っているのか、ということをある程度知ることができます。

LGBTに関する映画ですと、例えば共産主義者の男子学生と自由主義者のゲイ男性との友情を、キューバの社会情勢を背景に描いた『苺とチョコレート』(1993年)や、アメリカ中西部を舞台にカウボーイ同士の恋愛を描いた『ブロークバック・マウンテン』(2005年)、身体的には女性で性自認が男性のトランスジェンダーの主人公の身に起こった事件を描いた『ボーイズ・ドント・クライ』(1999年)、マイアミの貧困地域の少年が同性を好きになる『ムーンライト』(2016年)などがありますが、いずれもアカデミー賞ほか数々の映画賞を受賞した傑作です。

そういう映画を観ていると、1本観るごとに自分の感覚が変容していくのが分かります。自分が経験していない世界を経験させてくれるのが映画の良さです。

異性の作家の小説を読んで登場人物に成りきる

本を読むことも、対人想像力を育むためには欠かせません。読書は自分の知らない世界を知ることについても有効ですが、ここで強く推したいのはルポルタージュや紀行文や伝記などのノンフィクションではなく、フィクションのストーリーが展開する小説のジャンルです。

小説を読むことは、対人想像力を広げるために必須であると私は考えます。なぜなら小説は、単に世の中にはいろいろな人や世界があるという事実を知るだけに止まらず、登場人物に成りきる仮想体験ができるからです。

私は日々、多くの小説を読んでいます。それは自身の経験や、単に情報として事実を知ることだけでは限界があることを理解しているからです。

例えば私は男性ですので、女性目線で物事を見ることはできません。そこで私は、意識して女性作家の小説を読むようにしています。英作家ヴァージニア・ウルフ(代表作『ダロウェイ夫人』)や、シャーロット・ブロンテ(同『ジェーン・エア』)、エミリー・ブロンテ(同『嵐が丘』)、米作家ルイーザ・メイ・オルコット(同『若草物語』)などの小説を読むことによって、女性はこういう感性で世界を見ているのかということが少しだけ分かり、自分に欠けている感性を補うことができるのです。

カナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』もオススメです。『赤毛のアン』はストーリー自体が想像力をテーマにしています。想像力豊かでお喋り好きな主人公のアンは、気に入ったもの、美しいものに名前を付けたがる女の子です。この湖や花はこういうものだから、こういう名前を付けてみようと想像の世界で遊ぶのです。