活動資金をあわせたら完全に赤字

――段ボールベッドの認知度が上がり、売り上げは伸びましたか?

それがぜんぜん。

全国シェアで言えば、うちの段ボールベッドは2割くらい。

売り上げは会社全体の1~2%くらいでしょうか。金額にすると昨年は700万円ほどです。発注数に寄りますが、1台あたりの価格は8000円~1万円ほど。原料は段ボールですから、儲けはあります。でも、東北に熊本、北海道と災害が起きるたびに自費で被災地に行きますからね。段ボールベッドの普及に何千万円使ったか分かりません。こうした活動にかかる費用をあわせると、段ボールベッド事業は完全に赤字です。

Jパックスが開発した段ボールベッド「暖段はこベッド」。感染症対策用にフードが付いている。
撮影=水谷嘉浩
Jパックスが開発した段ボールベッド「暖段はこベッド」。感染症対策用にフードが付いている。

――意外です。段ボールベッドをはじめて開発したJパックスは、もっと大きなシェアを占めているのかと思っていました。

うちは従業員数35人の中小企業です。やれることには限界があります。

東日本大震災のあと、全国段ボール工業組合連合会という業界団体に、うちの段ボールベッドの設計図を無償で提供したんです。いつどこで災害が発生するか分からないから、全国の段ボール屋に使ってほしいと。最初は相手にされなかったのですが、2016年の熊本地震あたりからうちの設計図を基に全国の事業者が段ボールベッドを生産するようになりました。

寝ている間に潰れてしまうような粗悪品も…

2020年7月4日に熊本県の球磨川が氾濫して、84人が亡くなった大きな水害があったでしょう。支援活動を行うために大阪から熊本に移動したのが、翌日の午後でした。現場に行くとぼくのことを知っている熊本県の職員がいて、熊本県の政策審議官を紹介してくれた。6日には人吉市役所で政策審議官と人吉市長と面会して段ボールベッドの導入を決めました。

すぐに政府からのプッシュ型支援として届いた段ボールベッドを避難所に設置したのですが、これがヒドい品質で……。ベッドに乗るとぐらぐら揺れるし、段ボールが簡単に手でちぎれてしまう。何かの拍子に潰れてしまってもおかしくないほど強度が弱かった。これはあかん、と本当に使用するかどうか検討するよう県の職員に助言しました。たぶん災害の現場を知らない段ボール会社がつくったのでしょう。

東日本大震災で被災した陸前高田市の仮設住宅で、8年間使用された段ボールベッド。
撮影=水谷嘉浩
東日本大震災で被災した陸前高田市の仮設住宅で、8年間使用された段ボールベッド。

その後、すぐに業界団体の標準的な段ボールベッドを手配して7月12日には人吉市内の全7カ所の避難所に850人分のベッドの設置を完了しました。