入札では安価な商品が選ばれてしまう

――段ボールベッドがあればいいというわけではないんですね。

もちろんです。うちの「暖段はこベッド」は7トンの重さにも耐えられますからね。最初に段ボールベッドを開発した責任もあるし、被災した人が使いやすいように設計している。変なものをつくるわけにはいかないんですよ。

でも自治体は支援物資を入札を行って仕入れるでしょう。性能や使い勝手、強度ではなく、値段が安い商品が選ばれる。だからうちの商品よりも安いモノが売れてしまう。かつて自治体はホンダ製やヤマハ製の発電機を災害用に備蓄していましたが、いまは安価で性能が悪い海外製が増えていると聞きます。

2020年7月、豪雨災害が発生した熊本県人吉市の避難所。
撮影=水谷嘉浩
2020年7月、豪雨災害が発生した熊本県人吉市の避難所。

ここで少し考えてみてほしいのです。平時で使うものなら安価な商品でもいいかもしれません。けれど、段ボールベッドが必要となる災害時は有事です。お金をケチって被災者が体調を崩し、命を落としたら誰が責任を取るのか。災害との戦いに備える戦略が欠如しているんです。だって、そうでしょう。災害という強敵に立ち向かうときに、使えるかどうかも分からない安い武器を備蓄して勝てるのか、と。しかも日本全国の1741の市町村がそれぞれ入札するから、備蓄される武器がバラバラなんですよ。質はもとより、そもそも段ボールベッド自体を用意していない自治体もある。これでは近隣の市町村が相互支援を行おうとしてもスムーズに行きません。もたついているうちに、災害関連死が増えてしまう。

「様子を見ながら逐次投入」では後手に回る

――旧日本軍の陸軍と海軍では、ネジやエンジンの規格が異なる航空機を保有していて、部品の互換性もなく、非効率的な戦いを強いられたという話を思い出しました。

アメリカは同じタイプの爆撃機を大量に生産するから、修理もしやすい。日本はロジスティック(兵站)に対する考えがなかったから、戦争に負けたと言われています。災害との戦いも似ているかもしれません。災害時にも様子を見ながら支援物資を逐次投入する。本来は戦略を練って、必要な物を必要な場所に一気呵成かせいに送るべきなんです。

――その点で物資の提供などがうまくいった災害はありますか?

2018年の北海道胆振東部地震は4日後に段ボールベッドが避難所に届きました。発災直後に厚真町が北海道庁に段ボールベッドを要請したんです。実は、ぼくは神戸の「人と防災未来センター」で災害支援などについて講師をしているのですが、厚真町の職員が2泊3日の研修を受けていた。だから被災直後に動けたのだろうと思います。加えて幸運だったのが、避難所支援に詳しい日本赤十字北海道看護大学の先生が道庁に偶然いたこと。厚真町の要請を知ったその先生が大学に備蓄した段ボールベッドを手配してくれたんです。