マイクロソフトとグーグル、現時点ではどちらが覇権を握るのか、あるいはどこが抜け出すのかわからない。

とはいえ、ChatGPTのデビューは衝撃的だったが、おかしな回答が返ってくるケースも多く、今後はネガティブな評価を受ける時期がしばらく続くだろう。いずれはそれを乗り越えて定着していくと予想するが、その間にグーグルがどこまで差を詰められるか。いずれにしても2023年はビジネスにおける「AIチャットボット戦争」元年になる。

シンギュラリティで「悪の帝国」が登場?

ChatGPTについては、ビジネスへのインパクト以外にも語らなくてはいけない重要なテーマがある。テクノロジーの悪用だ。

OpenAIは15年、非営利の研究所として設立された。関わったのは、イーロン・マスク、サム・アルトマン(OpenAI最高経営責任者、Yコンビネータ元代表)、ピーター・ティール(ペイパル共同創業者)、リード・ホフマン(リンクトイン共同創業者)といった、いわゆる「ペイパルマフィア」やその周辺の人たちだ。OpenAIは19年に営利企業を設立して、そこにはセコイア・キャピタル、タイガー・グローバル・マネジメント、アンドリーセン・ホロウィッツといった名だたるベンチャーキャピタルもお金を出している。

OpenAI設立の目的が興味深い。創業者たちは、AIの暴走を防ぎ、人類全体の役に立つ方向で進化させることを目的に掲げた。シンギュラリティが起きると、それを悪用して「悪の帝国」を打ち立てようとする人間が必ず出てくる。それを防ぐために技術開発しようというわけだ。

実際、テクノロジーは使い方次第で毒にも薬にもなる。フィリピンから日本国内の強盗事件を指揮したと目されるグループが逮捕されたが、そのグループが使っていたのはロシアで開発された匿名とくめい性の高い通信アプリ「テレグラム」だった。22年のアプリダウンロード数で、テレグラムはフェイスブックやスポティファイを抜いて世界6位になっている。全ユーザーが悪いことに使っているわけではないが、この伸びは「書き込みした内容が一定時間後にかき消される」という、アンダーグラウンドで重宝される機能が知れ渡ったことがその要因だ。

こうした現状を見ると、AIが「悪の帝国」に利用されることを阻止するというOpenAIの設立趣旨はよくわかる。「ペイパルマフィア」らが本当に善良な動機でやっているのかはわからないし、ChatGPT自体が悪用される可能性もあるが、少なくとも看板として掲げた方向性は評価すべきだろう。

すでに「悪の帝国」の動きを制するのに活躍しているAI企業もある。アメリカのパランティア・テクノロジーズだ。パランティアの創業は04年。こちらも「ペイパルマフィア」の中心人物ピーター・ティールが立ち上げて、スタンフォード大学時代の友人であるアレクサンダー・カープがCEOを務める。