1854年に創業したルイ・ヴィトンを例に考えてみよう。

マーケティングの先生が書いたブランド論の教科書では、冒頭に「ルイ・ヴィトンやシャネルだけがブランドじゃない」「コカ・コーラもマクドナルドも、トヨタもソニーもブランドだ」といった記述が見られる。だが、その後、話は二度とルイ・ヴィトンには戻ってこない。最初に触れられるだけだ。

しかし、これはおかしな話だ。一般の人に「あなた、ブランドは好きですか。ブランド品を持っていますか」と尋ねてみよう。みな間違いなくルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスのことを指していると考えるはずだ。ブランドといえば誰もがルイ・ヴィトンをイメージするのに、マーケティングの先生が枕詞にしか使わないのは大いなる間違いである。

ルイ・ヴィトンのこれまでの道のりには日本企業が参考にすべき点が多々ある。1970年代までは、店舗はパリとニースにしかなかったが、自分たちが営んできた地場伝統産業が東洋の島国で受けることを自覚すると、78年に東京と大阪に出店し、その後大成長を遂げた。そして創業以来、一度も値引きやセールをしたことがない。

これは決して特別なケースではない。P&Gが巨大化する過程で体系化されたものがマス・マーケティングだとすれば、ルイ・ヴィトンやエルメスといったパリやミラノの街角で生まれた小さな地場の伝統的なブランドが、世界的なラグジュアリーブランドに成長する過程で踏んでいった戦略を体系化したものがラグジュアリー戦略だ。他の企業にも応用できる戦略である。