成功に必要な条件は神話と登場感、パブリシティ

ラグジュアリー戦略を採用し、高くても売れる商品を作っていくうえでは、ストーリー、もっと大げさにいえば神話が不可欠だ。

ルイ・ヴィトンのトランクにまつわるエピソードを耳にしたことはないだろうか。座礁し海に沈んだタイタニック号を引き揚げたら、ルイ・ヴィトンのトランクが出てきて、中を開けたら一切水が入っていなかった。どう考えても信じられない話だが、ルイ・ヴィトンは否定はしていない。いまとなっては誰も確かめられないし、真実かどうかは永遠の謎。いわば「言ったもの勝ち」「言われたもの勝ち」なのだ。

この場合、大事なのはことの真偽よりも、人に「そうかもしれない」と思わせる話が流布することだ。ポルシェには「天才フェルディナント・ポルシェ博士が心血注いでつくった車」、フェラーリには「エンツォ・フェラーリ創業者が熱い想いを込めてつくった」というストーリーがあるように、ラグジュアリー戦略にはファンを魅了する神話が欠かせない。

悲しいかな、ラグジュアリーブランドを目指したレクサスにはそういった突き抜けたストーリーや神話がない。私がもしレクサスのマネジャーだったら、まずは1店舗、旗艦店を銀座か表参道につくっただろう。当然、長蛇の列ができニュースになる。なかなか順番が来ないというクレームがくれば、「申し訳ございません。1店舗しかございませんので」と言えばいい。満を持して2店舗目を出し、そこから店を増やしていく。

ところが、レクサスは名古屋と国道16号線などに一気に150もの店を出店した。製品自体も、ちょっと前までは「ソアラ」だった車を、歌舞伎の襲名よろしく「ソアラ改めレクサス」としただけで、エンブレムを隠すとどちらがレクサスなのかわからない。

要するに、“登場感”がないのである。「あ、こういう商品が出たんだ」というサプライズがないブランドは論外だ。新鮮な驚きやストーリーが欠けていては、どんなに品質が良い車であってもプレミアムカーの域を脱することは難しい。