ネットの普及で迷惑行為の拡散範囲が拡大した

かつて、この種の情報は飲食店の経営者同士の口コミや投書などでしか伝わってこなかったが、昨今は行為者自身が撮影し、それがネットで伝わっていく。

昔からあったあおり運転がドライブレコーダーによって顕在化したともいわれるが、それと同様に、飲食店での迷惑行為も以前は見えなかったものが見えるようになった。だが、単に見えるようになっただけでなく、瞬く間に広範囲に拡散し、国や世界規模の話題になるという点に新たな恐ろしさがある。これにより、飲食店やその利用客に対しかつてとは次元の異なる結果・影響を招くこととなった。それは、主に次の2つだと言える。

1.迷惑行為を行った当事者の人生を変え得る事態となること。
2.迷惑行為の現場となった店・チェーンの業務を大規模に妨害し、ブランドを大きく毀損きそんし得る事態となること。

いずれもインターネットやSNSの伝播でんぱ力によるものだ。2については、行為の現場は1カ所であっても、同一と見なされる店舗が複数あるチェーンでは影響なり被害なりが増幅するという点も見逃せない。個人経営など小規模店で発生する迷惑行為を軽視するわけではないが、対象がチェーンで、しかもそれが株式公開企業であった場合には、経済的・社会的な影響はより大規模になり、「黙っていられない」と感じる人(株主や従業員、そしてお客)の人数は桁違いに多くなるということだ。

したがって、このような事柄に対しては、社会全体で早急に防止に取り組んでいくことが必要であると筆者は考える。

客が迷惑行為に走らない工夫も必要

現代は、スマホもSNSもなかった時代とは異なる教育や文化が必要なはずだが、おそらくそこに家庭や学校や社会は追いついていないのだろう。また、昔は街や店の中で見ず知らずの大人が若者や子供の迷惑行為を叱りつけるということはあったが、今はそういう社会とは違ってきている。それらにどう対処していくかについて、家庭、学校、企業などさまざまな場での検討や新しい思潮・文化づくりも大切だろう。

飲食店は本来、人に優しくし、親切にする場である。ある人が、“出禁”になったり、犯罪者になってしまったりということは、店側にとって、他のお客も誘って来店し続けてくれたかもしれない顧客を1人失うということでもある。

店というものは、お客が店内で転んだり、やけどやけがなどの事故がないように気を使って設計されるものである。決して今回の事案について店側に何か落ち度があったというわけではないが、それと同様に、誰かが悪い方へ落ちることがないように守る仕組みも積極的に考えていいのではないか。それは結果的に店側にとってもさらなる良い店づくりにつながるはずである。