アルコールとの併用の罰

転機はそれから半年、26歳のときに来た。

「翌日の大きな商談のために、朝7時の新幹線に乗らなくてはならなかった。それなのに、眠れない。商談に使う資料も、客先への手土産も私が持っている。絶対に遅刻するわけにはいかない状況です。眠ろうとすると目が冴えてくる。深夜0時を過ぎて、お風呂にも入ったのに『眠気が来ない』とわかったときに、ストロング系のチューハイ500mlを1本飲んだんです」

美奈絵さんは酒が強い。1本飲んでも眠れなかった。

お酒を飲む女性
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「気が付くと何錠か飲んでいたみたいです。アルコールで理性がぶっ飛んでいて、眠れない苦しみから解放されたい一心で、薬を口にしていました」

目が覚めたのは病院だった。薬を飲んでから30時間が経過していたという。

「新幹線に乗ってこない私をおかしいと思った上司が、総務に連絡。総務は社労士に連絡して、無断欠勤した社員の対処方法を聞いたそうです。社員の現住所は個人情報保護から極秘事項で、無断欠勤程度では閲覧ができない。そこで、社労士は緊急連絡先である実家に連絡し、両親が都内のマンションに駆けつけてくれたのです」

両親は合いかぎを持っていない。管理会社は「すぐにはカギを貸せない」という。そこで、鍵屋さんに連絡をして、カギを壊した。10万円の費用は、両親が支払った。

「そしたら、いびきをかいて眠りながらおねしょをしている私がいたそうです。救急搬送されましたが、胃洗浄するほどではなかった。点滴して経過見守りをしているうちに私の目が覚めました」

繰り返す救急搬送

会社は「せっかくここまで働いたんだから、まだ頑張って」と言ってくれたが、両親は血相を変えて「連れて帰ります」と言い、実家に連れ戻された。

「父親が人事に『うちの子に何をしてくれたんだ!』と怒鳴ったそうです。人事も『まさか親がしゃしゃり出てくるとは……』と驚いたそう。退社手続きも、労働組合の手続きも、みんな両親が行い、私はひたすら眠っていました」

実家に連れ戻されてからは何も不安がなくなり、美奈絵さんはよく眠っていた。体調が落ち着くと、両親に結婚をすすめられる。

「それがかなり強引なんです。それがどうしても嫌で、親に頼み込んで、再び東京に出てきました」

それから美奈絵さんはシェアハウスに住む。一時期は昼の仕事をしたが、オーバードーズ(睡眠薬、向精神薬の大量摂取)で2度、救急搬送された。それ以外に何度も、昏睡したり記憶がなかったりすることがあるという。

救急車
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「いずれもストロング系を飲んで酩酊して、過剰に薬を飲んでしまうことが原因でした。『朝起きられなかったらどうしよう』という不安が強いんです。緩やかに効く非ノックダウン型の睡眠薬も試しましたが、効果はありませんでした。体が睡眠薬に慣れているし、そもそも効果に切れ味がないんですよね」