孤独な首相が求めるのは、やっぱり「血縁者」

ワンマンの中小企業経営者なんかにありがちだが、そろそろ事業承継なんて話になると、これまで会社に滅私奉公で尽くしてきた幹部社員たちに声をかけることなく、大企業に勤めていた長男を呼び寄せて役員として迎える。「腹心」や「懐刀」と呼ばれる人がどれほどいようとも、最終的に心から信用して後継を託せるのは、「血縁者」というワケだ。

「最高権力者」といえば聞こえはいいが、首相というのも経営者と同じで孤独なポジションだ。結果が出ないと国民から呼び捨てでフルボッコで叩かれる。側近たちはみんなもみ手でヘコヘコしているが、心の底から信用できる者は少ない。みな「次の首相」を見据えて水面下で動いているし、中には露骨に首相の座から引きずり降ろそうとする者もいるからだ。

そんな孤独な宰相にとって、「自分を絶対に裏切らない身内」が官邸内にいるというのはかなり心強いということは、容易に想像できよう。

ただ、国民や国会から厳しく糾弾される「岸田翔太郎政務秘書官」を首相が起用し続けるのは、自身のメンタルヘルスだけが理由ではない。

安倍晋三氏を秘書官に引き込んだ父・晋太郎氏

一般庶民の間ではほとんど知られていないが、日本の政治を家業として仕切っている「政治屋一族」の皆さんの間では、「権力継承をスムーズにさせるためには、大臣や首相になったら後継者を政務秘書官にしなくてはいけない」という暗黙のルールがある。

わかりやすいのは昨年、凶弾に倒れた安倍晋三元首相だ。成蹊大学を卒業してアメリカに留学した安倍氏は神戸製鋼に入社。その後、1982年に父・安倍晋太郎氏が外務大臣になったタイミングで会社を辞めて政務秘書官になった。

ただ、有名な話だが実は当初、安倍氏は「会社に迷惑をかける」という理由で秘書になることを頑なに拒否していて、そのためしばらく政務秘書官のポストは空白だった。そこで父・晋太郎氏は神戸製鋼首脳部に連日電話を入れて、なんとか息子を退職させてくれないかと迫った、なんて今の社会通念上ありえない昭和的エピソードも残っている。

さて、そこで皆さんが疑問に思うのは、なぜ安倍晋太郎氏はこんな強引なことをしてまで、息子を政務秘書官にしたかったのかということではないか。