経済的理由より「政治的意思」が重んじられる理由

まず、EUが、ユーロ圏からギリシャを離脱させるために、EUからギリシャを離脱させるかどうかが問題となる。EUから離脱させるかどうかは、経済的要因だけではなく、政治的要因(地政学的要因を含む)も重要な決定要因となるであろう。この問題に関しては、ギリシャのユーロ導入を認めたときのように再び、政治的要因あるいは政治的ロジックが経済的要因あるいは経済的ロジックより優先するかもしれない。経済通貨同盟の形成において「政治的意思(political will)」を重視してきたEUにおいて、政治的ロジックが経済的ロジックよりも相対的に支配的であることから、財政再建ができないという経済的理由のみでギリシャを離脱させることは、想像しがたい。

それでは、ギリシャをEUにとどめたまま、ユーロ圏から離脱させることはどうであろうか。ユーロ圏から離脱させる規定がリスボン条約に定められていないことを除けば、そして、そのための議論をするために相当の時間を要するであろうが、EUにとどまったままユーロ圏からギリシャを離脱させることはありえるかもしれない。問題は、そのようなインセンティブがEUにあるかどうかである。EUにとどまったままユーロ圏からギリシャを離脱させると、前述したように、ギリシャ国内で起こりそうなことは、ドラクマの減価・暴落とそれによる財政収支の一層の悪化、さらには金融危機である。

EUに残された採らざるをえない選択肢とは

このような危機的状況をさらに悪化させたギリシャをEUの一員として見捨てることが許されるのであろうか。現在、ギリシャに対する救済策は、EUとECB(欧州中央銀行)とIMF(国際通貨基金)のトロイカ体制で取り組まれている。EUとECBがギリシャを救済するに際して、救済資金に限界があったという理由のほかに、厳しいコンディショナリティ(救済策のための条件と再建計画)をIMFからギリシャに課して、救済策を実行していくために、IMFがギリシャの救済に関与してきた経緯がある。そのような経緯を考慮に入れると、ここでEUがギリシャへの救済から手を引くわけにはいかない。また、IMFへの最大の出資者であるアメリカ政府が、「EUの問題はEUの問題である」というスタンスをとってきたことも考え合わせると、EUはギリシャの問題から手を引くことはほとんど困難であろう。

そうすると、ギリシャをユーロ圏から離脱させて、ギリシャの問題を深刻化させて、引き続き救済を続けるよりは、ギリシャをユーロ圏から離脱させずにとどめることを許すことを条件として、ギリシャ政府と国民に財政再建を実施させることが採らざるをえない選択肢であろう。

このタイミングでギリシャのユーロ圏離脱の可能性を持ち出して、ギリシャに財政再建を迫ることは効果的な方策であろう。しかし、ギリシャのみならず、他のユーロ圏南欧諸国へ財政危機が波及することも考慮に入れると、それを実施することのコストは極めて大きい。ユーロ圏離脱ルールに関する検討は財政危機終息後の平時まで待つことにして、EUは自らの同僚としてギリシャを財政再建に向けて後押しすることに力を尽くすべきであろう。そして、ギリシャ国民は自らの状況を合理的に理解しなければならない。

(図版作成=平良 徹 写真=PANA)
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『ユーロ──危機の中の統一通貨』田中素香