心理的安全性の確保が必須

もう一つ、ダイバーシティ組織に必須の要素は心理的安全性といわれています。心理的安全性とは、ハーバード・ビジネススクール教授で、組織心理学の研究者であるエイミー・C・エドモンドソン氏が1999年に提唱した概念で、大まかに言えば「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことです。

様々な世代の映像を出会う複数のビジネスマン
写真=iStock.com/RRice1981
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エドモンドソン氏は、著書の中で次のように述べています。

「職場環境にかなりの心理的安全性がある場合、いいことが起きる。まず、ミスが迅速に報告され、すぐさま修正が行われる。グループや部署を超えた団結が可能になり、驚くようなイノベーションにつながるかもしれない斬新なアイデアが共有される。つまり複雑かつ絶えず変化に対応する環境で活動する組織において、心理的安全性は価値創造の源として絶対に欠かせないものなのである」(『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版刊より)

意見を言ったら、何かにつけて否定的な態度をとられたり、攻撃されたりする。序列が最優先で、上司が黒い犬を見て「白」と言ったら、部下はそれに従わないといけない空気が流れていたり、会議で話す順番などもあらかじめ決められていて、異質な意見は排除されたり、何かと牽制されたりする。こういった組織では、特に女性をはじめとしたマイノリティたちは委縮するばかりで、不安は蔓延し、誰もが安心して力を発揮する組織にはなりません。

パワハラのある職場から女性は去っていく

結果、どれだけ多様な人材がいたとしても、イノベーションの妨げになるどころか、大きな事故につながりかねないミスを指摘する人間もいなくなる。多様な人材をマネジメントするということは、組織の中に多様な価値観が存在するということですから、自分の価値観や旧来の常識とは異なる意見が出るのは当たり前です。

インクルーシブリーダーを目指す方は、ここを、部下とのコミュニケーションにおいて、特に念頭において心掛けていってほしいと思います。この意味でも、いかに部下のためを思った言動であれ、パワハラは絶対に撲滅しなくてはなりません。特に女性は体力的に優っている男性に強く攻撃されると、委縮しがちです。

自分自身がターゲットにならなくても、身近な男性上司が、その上の上司に怒鳴られているのを見て「あそこにいったら、次は私の番なのだ」と想像し、優秀な人でも昇進意欲がなくなることは本当に多いのです。怒鳴ったり、きつい言い方をしたりする上司が、同じフロアに一人でもいると、自分がターゲットになっていなくても、それを見た女性の異動希望者や離職者が激増したなどという話は数えるときりがありません。