「大切なものほど長く濃く」が60代の鉄則

わたしは日々、締め切りに追われています。漫画家の宿命です(ちょっとオーバーですが)。

日本を代表する漫画家の手塚治虫さんは、デビューから1989年の死去まで、第一線で作品を発表し続けました。『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』など、多くの人がご存じの、人気漫画の生みの親です。

その手塚さんが、自分が数多くの作品を残せたのは、締め切りがあったからだと言っています。

火事場のバカ力というように、締め切りがあることで、不思議な力が出ることをわたし自身、何度も経験しました。

60代は時間があるのかないのかという問題があります。

わたしの答えは、「ある」です。密度の濃い時間ならいくらでも持てます。

時間というのは、不思議なもので、感覚で長くも短くも感じます。しかも濃い時間、楽しい時間は時の流れを止めてしまいます。

「大切なものは時計ではかれる」

これは現在フリーアナウンサーの渡辺真理さんが新聞に書かれていたものです。彼女がカトリック系の高校に通っていたとき、シスターに教わった言葉だということです。

その意味は、「好きな人のことを考えていた時間」「夢中になった時間」の長さが、イコールそのことを大切にしている証拠だというものです。

大切なものほど長く濃く、そうでないものは短いということです。大切なことは時間に置き換えることができるという話です。

時間は融通無碍です。わたしはこれに期限=締め切りを加えたいと思います。

いかに時間を大切なことに使うか。そのために期限をつけてみる。これで60代からの時間は非常に貴重なものになっていくはずです。

一本の長い道
写真=iStock.com/35007
※写真はイメージです

みなさんは葛飾北斎をご存じだと思います。北斎は江戸後期に活躍した浮世絵師で、『冨嶽三十六景』『北斎漫画』など、生涯に3万点ともいわれる多くの作品を残しています。

北斎は、90歳という長生きをしました。寿命が短かった江戸時代ということを考えると、とんでもない長生きですね。

彼が残した言葉が、「もう10年、いや5年の時間があれば、画業を極められるのに」だといわれています。

その姿勢を見習いたいと思います。

肩書を、断る勇気

定年になったら、肩書は通用しない、というのはよく聞く言葉です。

でも肩書に代表される過去から離れられないのもまた人間の弱さです。頭ではわかっていても、実行できないというわけです。

タクシーに乗ったときに、運転手さんからこんな話を聞いたことがあります。

「以前、わたしはハイヤーの運転手をしていました。あるとき、『すみませんが、これから乗せる老人を会長と呼んでもらえますか』という依頼を受けたことがあります。上場企業の元会長さんだったらしいですが」

ハイヤーを利用できる人ですから、経済的には裕福なお客さんなのでしょう。会社を離れてからも「会長」と呼ばれたいことに、なんともいえない「哀れ」を感じました。

でも、この老人が特殊なわけではありません。人は地位の高さに比例して、こだわりが強くなると思っています。

実際、わたしも会合などで元大臣や元総理に遭遇することがあります。そのとき「○○総理」とか「○○大臣」と周りが呼んでいます。日本人の体質なのかもしれません。

でも、本来は断るべきでしょう。いや、断る勇気がほしいですね。

「わたしを肩書で呼ぶのはやめてください」と。

弘兼憲史『弘兼流 60歳から、好きに生きてみないか』(三笠書房)
弘兼憲史『弘兼流 60歳から、好きに生きてみないか』(三笠書房)

わたしは漫画家という職業を名刺には書きます。でも幸いなことに、書き込む肩書はありません。ゆえに、今も自由に生きています。

わたしのことを「先生」と呼ぶ人もいますが、わたしは何も教えていないので、

「先生と呼ぶのはやめてください」

と笑顔でやんわりお断りすることもあります。

肩書をとる――そこから、あなたの新しい人生が始まると思いますよ。

裸になれ、ということです。

60代は「もう一つの青春」の始まりです。肩書という古くさいしがらみこそ青春にふさわしくないとは思いませんか。

肩書がほしいなら、新しい肩書をつくりましょう。

「元」「前」はみっともないことだと思いましょう。なぜなら今が輝いていないから、そう呼ばれているということだからです。

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