育休で1年も休んだら、男性にもっと差を付けられる…

岸井さんは技術系の組織に配属となった。

「完全に、男社会でした。女性を昇進させる考えはなく、男性がどんどん上に上がって行くって感じでした」

この頃に妊娠が判明、3月10日が出産予定日だったが、2月19日まで働いた。

育児休業申請書
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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「こんなに仕事をしているのに、同じ仕事をしても男性が先に昇進していく。恵みの赤ちゃんでしたが、1年間も休んだら、男性にもっと差をつけられると思ったので、ギリギリまで働いたんです。そしたら、2月21日に生まれました。産休に入って2日後のことでした」

低出生体重児の赤ちゃんだった。厳しい管理の下で、体重を増やしていかないといけない。早めの職場復帰を目指していたが、母から「いい加減にしなさい。こんなに小さく産んで」と叱られ、医師からは「まだ働く気ですか」と諭され、結局、予定より延長し、それでも1年未満で復帰した。

「会社の人事評価にできる限り穴を開けたくなかったんです。それだけきつかったのだと思います、男性優位の職場で。ここで置いていかれたら、もう二度と這い上がれないと思いました」

理不尽に思える「昇進の条件」

転職以来、「なんで、こんな人が……」と思う男性が昇進していくのを何度も見てきた。一方、別の部署から異動してきた一回り以上年上の女性が、岸井さんより先に「課長代理」になったのも目の当たりにした。

「私はこの方のことを本当に慕っていて、恨みはないのですが、でも、なんでだろうって。仕事は私の方がやっていたので、年功序列だと思いました。そっか、若手の女性は上げてもらえないんだって」

この女性はまもなく会社を辞めた。岸井さんの職場復帰が遅れたことがしんどかったという言葉を残して。

代わって「課長代理」になったのは、やはり男性だった。

「女性は年齢、男性は知識と資格で昇進する。人柄は関係ないわけです。課長代理になった男性は言動が乱暴だったので、スタッフは慕うどころか嫌っていました」

そんな人物が自分を差し置いて、昇進していく。上昇志向の強い岸井さんは、理不尽な思いを抱えて仕事に打ち込むしかなかった。

結婚して出産後もフルで働く女性は、まれだった時代だ。岸井さんの背中を見ている後輩女性から、こんな声がかけられた。

「私たちの道にある“石”をどかして、進んで行ってください」

「それは自分でやりなさい」と言ったものの、岸井さんにとっても自分の道に置かれていた“石”と格闘せざるを得ない人生だった。