地方の教育格差を手助けする「スタディサプリ」

「30年以上もリクルート社で働いてきた経験からすると、社会パーパスだけを念頭に意思決定をしたことはないと思います。いつもいつも、私たちは社会的価値と経済性とのバランスを念頭に置いていました」と池内。リクルートがやるのは、はっきりした社会的価値を持つが、不確実な商業的見通しを持つプロジェクトに資金をつけることだ。同社がいずれ、そのプロジェクトに商業性を持たせられると期待してのことだ。

リクルート社は勇敢によきサマリア人のボックスから出発し、賢い思考と頑張りにより、パーパスと利潤に到達できるという信念を抱いている。そういった種類の社会志向のリスク負担こそ、リクルート社のいう「社会的価値を優先」なのだ。

2020年現在、リクルート社はその事業の一つ、オンライン学習の「スタディサプリ」に、いずれ黒字転換を期待して8年にわたり出資している。2012年に開始したスタディサプリは、低所得や地方の学生が、エリート大学への進学を左右する標準試験でよい成績を挙げるチャンスを提供するものだ。

こうした試験は日本の学校で教えない内容を扱っているので、生徒たちは成績を上げるために予備校に通わなければならない。こうした講義の費用を家族が出せなければ、あるいは予備校の授業がある都心から遠くに住んでいたら、もう絶望的だ。

登録者はどんどん増えたが、赤字が続き…

スタディサプリは当初、生徒たちが60ドルほどでオンライン授業を受けられるようにしていた。同じくらいの対面講義の四分の一程度の価格だ。2013年に、スタディサプリはその価格を変えて、10ドル程度のサブスクリプションで、オンライン講義をいくらでも受講できるようにした。また過去問などの追加教材は無料でアクセスできる。

2018年には、50万人近い会員がスタディサプリの有料サービスを使っていた。このサービスはさらに広がり、個人指導やもっと若い生徒への講義も含むようになっていた。高校受験勉強ビジネスは利益を出していたが、全体としての事業は赤字続きだった。これはどうやら2年後も続いたようで、同社は新規登録者の月額料金を2倍に引き上げた。池内は語る。