リクルートはなぜ復活できたのか

同社の未来が危うい中、リーダーたちは消費者たちや雑誌の出稿企業や日本国民の信頼回復に奔走した。ソリューションを上から言い渡すかわりに、従業員に提案を求めた。幾度にもわたる劇的な深夜会議も含め多くの議論の後に、リーダーたちはまず、株主への責務だけでなく、社会的役割や責任にもっと敏感な、新しいリクルート社を創り出すことで、傷ついた信頼を回復すべきだと決めた。

会議室で話す二人のビジネスマン
写真=iStock.com/Robert Daly
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同社は「企業理念」を採用し、「常に社会との調和を図りながら新しい情報価値の創造を通じて自由で活き活きした人間社会の実現を目指す」意図を述べた。

この理念にあわせて、同社は新しい経営の三原則を掲げた。「新しい価値の創造」「個の尊重」「社会への貢献」だ。こうした理念は、それまでの企業理念とかなり似ていたが、一つ大きな例外があった。「新しい価値の創造」はそれまでの「商業的合理性の追求」に取って代わった。この以前の理念ははっきり商業的論理を掲げるものだった。

「商業価値」と「社会的価値」をどう天秤にかけるか

同社が指摘するように「『商業的合理性の追求』は企業の存在にとって必要不可欠ではあるものの」「わたしたちが社会に必要とされる理由、私たちに出来る社会への貢献とは何かを議論した末に」この原理を変えたのだった。リクルート社は「いつも私たちは社会に受け容れられ、社会とともに歩む良心的で誠実な会社」でありたいという願いを強調しようとした。

その後の数十年で、同社はこの基本的な経営理念を更新し、最新の2019年版では、三原則はそれぞれ「wow the world,」「bet on passion,」and「prioritize social value.」となった(※)

※訳註:日本語での経営理念は変わっておらず、英語のみが変わっている。もとの理念を意訳した、とのことであり、理念そのものの変化ではないとのこと。

「社会的価値を優先」とはどういう意味なのか? 同社は財務業績など度外視して社会的価値を追求するのか、それともその逆なのか(それぞれよきサマリア人のボックスと利潤第一のボックスに収まることになる)。池内が私に保証してくれたように、リクルート社は商業価値しかもたらさないプロジェクトには「決して絶対に」資金を出さない。同社のパーパスに違反するからだ。だが社会には奉仕するが商業的な見込みのないプロジェクトにも資金はつけない。