優秀な経営者は、どんなことを考えて経営判断しているのか。ハーバードビジネススクールのランジェイ・グラティ教授は「優秀な経営者は、短期的に見れば儲からなくても、将来的に社会課題を解決する価値がある事業を見極めている。日本では、スキャンダルを経て一流企業に成長したリクルートがいい例だ」という――。

※本稿は、ランジェイ・グラティ著、山形浩生訳『DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

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優秀な経営者は、目の前の利益だけ見て仕事をしない

ディープ・パーパス・リーダーたちは、実務的理想主義の三つの原則に従う。まず、彼らはパーパスと利潤を常に目指す。パーパスを実存的な意図として献身する彼らは、万人に価値を創り出すために必要なむずかしいトレードオフに没頭する。単に善行を目指すだけでなく、善行をしつつ業績を挙げるというむずかしい作業をやろうと自ら挑戦する。商業的論理と社会的論理との間に生じる対立を維持し、そうした論理を体現する個別ステークホルダー間の対立も維持する。

第二に、ディープ・パーパス・リーダーたちは、商業的利得しかもたらさず社会的便益の見込みがない利潤第一の決断を避ける。だが、いつの日か社会的善につながるかもしれない儲かる決断やソリューションがあれば、それを引き受けて、その決断やソリューションが投資家だけでなくもっと広いステークホルダーの利益になるように、できる限り適応させようとする。

そして第三に、ディープ・パーパス・リーダーたちは大胆だ。もしいずれは儲かりそうなよきサマリア人的ビジネスアイデアがあれば、リスクを負ってそれを実施する。そしてそのアイデアが財務的に成立するように全力を尽くし、成立しないと会社の将来が脅かされることも理解している。

“困っている人を助ける”という指標が求められている

実務的理想主義の三つの基本原則

原則その1:よきサマリア人を超えてパーパスと利潤にこだわれ
原則その2:社会的価値をもたらさない利潤第一ソリューションは避ける
原則その3:よきサマリア人ソリューションをパーパスと利潤に変えられると思ったら、それを大胆に引き受けろ。さもなければやめよう

原則その3に注目しよう。ディープ・パーパス・リーダーたちは、理想主義的なパーパスに基づくプロジェクトを開始しようとし、それがうまくいくように力を尽くす。これは実務的理想主義の見事な表現だ。ほとんどのリーダーや企業が投資家を重視する中で、よきサマリア人のボックスから出発するにはすさまじい勇気が必要だ。

というのも投資家をなだめ、いずれ財務的収益が出るまで待てと説得しなければならないからだ。社会に便益をもたらす製品、プロジェクト、決断を採用してそれを進め、いずれ自分が有利な経済性を実現すると信じる(だが確信はできない)ときの信念の跳躍を考えてみよう。