半沢直樹の物語は「権力との戦い」か「出世争い」か…
筆者はこの結果を見て、大ヒットしたTVドラマ『半沢直樹』シリーズを見た若者たちの反応が実に様々であったことを思い出した。
第二シリーズが放映されたあとにドラマの感想を就活生や若手社会人に聞いたことがある。ある就活生は「自分の正義のために、巨大な権力と戦う姿をみてこうなりたいと思った」と話し、実際にメガバンクへ就職が決まっていた。またある者は主人公が勤めるバンカーの仕事を「人と人とのつながりを大切にすることが自分の資産になり大きな仕事に繋がるのだと感じた」そうだ。
他方で別の者からは、「トップダウンで相当年月を重ねないと発言権がないのだと思い、志望業種から外した」という意見もあった。主人公は課長や次長クラス以上だが、それでも社内で発言力があると思えなかったのだろう。「建前はいろいろあったものの、やっていることは要するに出世争いで、主人公の理念自体に共感できない」という声もあり、なるほどと思わされたこともある。
もちろん、原作小説を元とするフィクションであり実際のところはもっと変わっていると思うよと若者たちには伝えたが、これだけ国民的なドラマであっても、彼ら・彼女らに正負様々な意見や受け止めがあったことを、多様化する仕事の価値観のデータを見るときに思い出す。
「コスパ非常に重要」20代の5人に1人
続いて、「若者は多様だ」で終わっては味気ないと感じる方もいると思うので、プライベート志向とは別にもう1点わかりやすく傾向が見られる点を提示しておこう。
コストパフォーマンス志向である。「コスパ」という若者言葉もあるが、ご承知の通りコストパフォーマンス、費用対効果の略語で、ここ5、6年ほどで急速に一般化した。その用途は、従来の用法であったビジネスにおける投資効率を示すものから、買った商品の物持ちの良さ、サービスの品質、ランチに食べた食事の味、学習した物事、果ては交友関係によって得られるものまで極めて幅広く用いられており、一定の年齢層以下の日々の頻出語のひとつだろう。若者世代に対して、純粋に良いもの、を追求するのではなく、「値段以上の対価が得られるもの」を良いものとする世代だとする論調もある。
コスパという言葉には多くの使用法があるが、ここでは「仕事におけるコスパ志向」に注目しよう。データでは、働くうえでの価値観、重要性について「効率よく対価を得ること」が「非常に重要」と答えた割合を世代別に整理している。一目瞭然だが、20~29歳で21.4%に達しており、50~54歳は8.8%、55~59歳は9.2%と、その割合は50代の倍以上だ。年代が上がるごとに徐々に低下し最終的には5%程度となっている。コスパの良い仕事をしたい、という志向が高い可能性があると言及したのはこのためだ。