「費用」と「効果」の組み合わせ3つの事例
ただ、若者が仕事において「コスパ」という言葉をどのように使っているかを整理すると、実は全く逆の2つの潮流を生み出しているのではないかと考えている。
まず、費用対効果の「費用」と「効果」が仕事の面で若者にどのように考えられているかについて例をあげて見てみよう。例えば、就職活動や転職先選びにおいても「コスパが良い会社が向いていると思っている」「コスパ重視で探しています」といった声を聞くことができる。この場合の費用と効果は多義的である。
「費用」については、広義には労働負荷を意味するものと考えられ、具体的には、労働時間、ストレスの大きさ、ノルマの有無、人間関係、仕事の自分への帰責性、などを含んで使用される。また、「効果」については、広義には労働による対価を意味するが、具体的には、金銭的報酬、ノウハウ・人的ネットワークの獲得、成長機会、職務上の実績の獲得、キャリア上のロールモデルの存在、感謝の気持ちの獲得、安定性などを含んで使用される。
これらの双方の要素の組み合わせで構成されるのが前記の「コスパの良い仕事」である。例えば、
① 「残業はないが年収はそこそこ」といったケースは、金銭的報酬÷労働時間
② 「ギラギラしておらずのびのびした雰囲気だが、スキルが身につく」といったケースは、成長÷ストレスの大きさ
③ 「急なトラブルなどは少なく淡々と仕事すれば良いが、お客さんに感謝される」といったケースは、精神的報酬÷仕事の責任
このような“割り算”の結果が大きいという意味で用いられている。
「より高いパフォーマンス」か「より少ないコスト」か
こうした「コスパが良い仕事」であるが、この通り多義的であることから、結果として全く逆の2つの姿勢が生み出されているのではないかと考える。どういうことか具体的に見てみよう(図表4)。
一方の「コスパ志向」が高い若手からは以下のような言葉を聞くことができる。
「自分の履歴書に書けるようなプロジェクトに積極的に取り組みたい」
「自分の名前で仕事ができるようになりたいので、今の仕事を選んだ」
「この分野の第一人者になるための修業期間だと思っている」
「30歳までにほかのひとにはないような大きな成功体験を得るため全力で仕事したい」
確かに、こうした場合に「コスパの良い仕事」は良い選択肢となりうる。つまり、自分が得たい経歴、得たいスキル、得たい知見を“効率的に得るために”、今の仕事を選ぶのだ。そこには、短期的に・一定の時期までに効果が出る仕事を、能動的に選択していく姿勢が表れている。結果として職業生活における行動を促進する「コスパ志向」であると考えることができよう。
他方、全く同じ「コスパ志向」は異なる形で表出することがある。
「上司や同僚と異なることをして睨まれるのは無意味だと思う」
「社外で活動しても評価に結びつかないのでやる必要性を感じない」
「給料は一定なので人より早く帰るほうが得」
「ネットで調べると、失敗した事例がたくさん出てきてコスパが悪いので辞めた」