「養殖の魚は生簀の中で餌をもらって育つ。人間で言えば親や学校の先生が敷いたレールの上を走るタイプだよ。決められたことは守るし、言われたことは上手にこなすかもしれないが、人間自身が持っているエネルギーは少ない。

一方、天然の魚は自ら餌を取る。人間で言えば自分で物事を考えて決めてきたタイプ。悪ガキたちはこれに当たる。そういう人間は心の中に大きなエネルギーを持っている。ウチの社員は天然ものばかりだからね。心に火がつくとすごい力を発揮するんだ」

臨機応変にてきぱき動けるのが「天然もの」

玉子屋には根性のある「天然もの」が入ってきます。喧嘩の仲裁に入って指を食いちぎられたり、通り魔事件に遭遇してケガを負いながら出社してきた猛者もいる。腹から血が滲んでいたので、「どうした⁉」と尋ねたら、「昨日、駅前で刃物を振り回してるヤツがいて、止めに入ったら刺されました」という。「大丈夫か」と心配すると「午前中の配達は大丈夫です。やらせてください。でも午後は早退させてください」。

そんなエピソードを挙げたらきりがありません。

ビジネスには決まった答えがあるわけではありません。

特に玉子屋は刻一刻と注文状況が変わるので、その日の朝に決まったことを数時間後に変更するなど日常茶飯事です。弁当の配達にしても、配る弁当の数やルートが1日のうちに何回も変更されます。

そうした状況下で、機転を利かせてテキパキと動けるのが、「天然もの」の悪ガキ社員なのです。「養殖もの」は指示通りにやらなければと考え過ぎるから、何か変更があると動揺したりフリーズして、的確な判断が下せないことが多い。

顧客志向という点においても、「悪ガキ」社員のほうがしっかりお客様に向き合おうとする傾向が強いように思います。

普通の会社員はお客様からの評価よりも、上司からの評価を気にします。ところが「悪ガキ」社員は上司の顔色をうかがうよりもお客様が気になるというタイプが多い。

褒められた経験が少ないから、お客様から褒められることが何より嬉しい。だからお客様のためなら上司とも平気で喧嘩する。

玉子屋ではスタッフが「もっとお客様のために改善したい」と上司を突き上げる場面を、日常的に見かけます。