日経社長は社説を自信を持って自慢
新人記者の育成についてはどうだろう。日経商品部デスクK氏は言う。
「とにかく体育会系。上のことを聞いてすぐ動ける人間が、日経では一番使いものになるとされています。新人は配属されると、業界の慣習を学んでいくのですが、その相手は、先輩記者というよりは、同じ記者クラブにいる他紙の記者だったり、当該企業の広報だったりします。研修制度そのものを取材先企業に頼っている面もあるのです。
昔なら出世できる花形部署の経済部に一分一秒でもしがみつきたいと皆が思っていたのですが、最近の若い記者は、ワークライフバランスを重視したり、スポーツ部、生活情報部、文化部で自分の好きなことをやりたい、という人が多いようです。読者の人気も他の堅い経済紙面よりもあるようですし。あんなズラズラ細かいデータだらけの記事を隅から隅まで全部読んでくれる人は、喜多社長も含めていないと思いますよ。文字だって他紙よりずいぶん小さいし、四コマ漫画もない。
ただこれだけは言いたいのですが、日経の持っている強みは、どんなに文句を言われようとも、やっぱりそのデータ量、情報量の豊富さだと思うのです。スクープ至上主義と圧倒的な量の経済情報です。読者の購入動機を考えれば、人気のスポーツ面がなくても、一部数だって部数は落ちないと思います。このスタンスは、これからも変えてはいけないと思います」
喜多社長も取材班に対し「わかりやすい紙面にすることには、積極的に取り組んでいくが、文字をこれ以上大きくしたり、あるいは漫画を入れることは、今後もありえない」と述べ、ぎっしりと経済情報を入れ込むことへの決意を述べた。前出の読売記者H氏は言う。
「日経は商売上手という印象です。電子版も、いち早く軌道に乗せつつあります。その分、他紙と比べて記者一人が書く量が半端じゃない。
読売では、ナベツネ(渡邉恒雄氏)がいちいち記事に介入することはありませんが、一定の方針は上が決めている。逆に、朝日や毎日は、記者の自由度が高い。仕事もゆるそう。
日経の記者さん自身が、自分たちのことを『軍団』と自嘲するぐらい体育会系のノリは、読売より極端で、紙面の方向性も固定的です。記事を大量に書くカラクリがあるとすればそこかもしれません。考えずに情報を書き散らかせばいいのですから」
全国紙政治部記者L氏によれば「財界のトップの発言には、日経社説の強い影響力を感じる」という。紙面ではファクト主義を貫くとする日経の「社説」編集方針について、喜多社長に聞いた。
「(日経の)社説は自由主義経済を第一番の軸にしています。政府は小さく、市場経済はなるべく規制を少なく自由にやるべきではないのか。企業活動を活発に行えるような社会的環境が必要ではないか。こういった基本的考え方を、みんなで共有できていると思います。ですから、論説委員によって社説が右にいったり左にいったりすることもありませんし、極論など絶対にありません。自信を持って自慢できます」
※すべて雑誌掲載当時