あれもこれも…選択肢を増やすのは逆効果

ただし、このテクニックを使う上で注意点が1つあります。

それは、相手に提示する選択肢を増やしすぎないようにすること。選ぶ行為そのものは脳にとってストレスで、非常に多くのエネルギーを消費させるため、選択肢が多すぎると相手が決断を先送りしたり、交渉の場から離れてしまったりするからです。

チェックマークのついた木製のブロックを指さす人
写真=iStock.com/Wipada Wipawin
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人が自信を持って選べるのは、4~6個までといわれています(Iyengar & Lepper,2000)。また、口頭のみで選択肢を示す場合には、脳の「ワーキングメモリ(作動記憶)」を圧迫してしまう可能性もあるため、相手に提示する選択肢は2~6個までに絞りましょう。

なお、ワーキングメモリとは、「なんらかの作業を行いながら、そのために必要な情報を一時的に保存する記憶」のこと。

「この人は部屋が散らかっているのに家事もせず、ソファでゴロゴロして……本当にムカつく」からといって、「テレビを消して、読んだ本を片付けて、掃除機をかけて、飲みかけのコップを洗って、その後は洗濯とゴミ出しとベランダの掃除もして」とやってしまうと、ひとつも満足に仕上がらず、ますますイライラすることになりかねません。

相手が選べる選択肢を用意してあげるやさしさが、よい結果につながります。

極端な二者択一を迫る相手をかわすには?

最後に、「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」から身を守る方法について説明しましょう。

相手からあたえられた偏った選択肢の中から選択し、誤った判断をしてしまうことを「誤前提暗示」といいます。特に、交渉の場で極端な二者択一を提示された場合には注意が必要です。「この条件を受け入れてもらえたら契約を続けますが、そうでなければ契約解除です」と。

このような極端な選択をせまられ、選ばされてしまうことを「二分法の罠」といいます。誤前提暗示が働く中で二分法の罠にかかると、相手からの条件を受け入れる以外の選択はできなくなります。

したがって、偏った選択肢を提示されていると感じたときは必ず、「これ以外の選択肢はないのでしょうか?」と質問しましょう。相手が「ない」と回答してきたら、「なぜ、他の選択肢はないのですか?」と他の選択肢が用意されていない理由を問います。