「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」を試してみよう
たとえば、あなたがセールスの仕事をしているとして、なかなか売上が伸びない悩みを抱えているとしましょう。自分のセールストークを振り返ってみたとき、相手に買わない選択肢を残してしまっているとしたら、すぐに状況を改善することができます。
相手に示す選択肢を「買う理由」だけにするのです。
・しかも、この商品を買うことで、買い手の悩みが解消することを示す
・さらに、買った後、不満があれば返品できることを伝える
買い手が3つの選択肢のどれに惹かれたとしても、相手には「自分で決めた」という感触が残り、誘導されたとは気づきません。もちろん、それでも購入を見送る人は出てきますが、それでも売約率は高まるはずです。
このように、こちらで選択肢を用意し、相手がそのどれかを選んだ時点で合意の意思表示をしたことにさせてしまう手法を「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」といいます。
選択のさせ方や選択肢の見せ方によって人々の選択が変わること、また、その傾向を利用して人々の選択を誘導できることは「選択アーキテクチャ」(Thaler,2008)と呼ばれています。
アーキテクチャとは構造や構築のこと。つまり、人は「選択」するとき、選択肢の数やその順番、選択する回数といった要素の組み合わせから意思決定に影響を受けることが科学的に証明されているのです。
察しの悪い相手には「動く選択肢」を与える
とはいえ、私たちは日常のほとんどの選択を、過去の経験から「なんとなく」行っています。
たとえば、今日の夕食のメニューを決めるとき、急に今まで食べたことのない選択肢が浮上することはまずありません。基本的には、普段食べているメニューの中から、しょうが焼きを選んだり、ピザに決めたりしているのです。
同じように、普段、家事をしない人は状況を察して自ら動く選択肢が思い浮かびません。
こうした現状維持を破るのが他者から与えられる「選択アーキテクチャ」です。
相手を思うように動かしたいのであれば、どれを選ばれてもあなたは損をしない選択肢A、B、Cを用意しましょう。それを「今日の夜、豚肉、鶏肉、牛肉、どれを食べる?」くらいの自然さで、「ここから選んで当然」という雰囲気とともに相手に示すのです。
すると、相手は無意識のうちに交渉の優先権をこちらに委ねてくれます。
「お風呂の掃除と洗濯モノを干すの、どっちだったらできそう? どっちもできる?」も立派な「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」です。