「五線譜に乗らない生き方」を現代音楽から学んだ
――ツイートでは「複雑な状況を単純化して本質を掴むという方法論」と表現されていますね。
英語に「book smart」、「street smart」という言葉があります。book smartは学校の中だけでお勉強した人で、純粋培養で、非常に見ている世界が小さいまま、トンネルの中をまっすぐ進んできた人たち。street smartとは、不良やチンピラとつき合いがって、あそこらへんは行っちゃ危ないとか、体感で、身体で学んできた人たちですね。ほんとうのバカなだけの不良はヤクザになるしかないですが、そうはならなかった人たち。両方のセンスが必要だと思いますよ。
――たしかにモーリーさんの自叙伝を拝読すると、東大・バーバード合格というbook smartの面もありながら、学校・教師に疎まれ、両親の不仲に悩まれ、最終的にはハーバードと東大に合格してメデイアに取り上げられると、最後の寄り所のようだったバンド仲間から「お前だけ目立ちすぎている」のような理由で除名されています。ただ自分が好きなことをしているだけなのに、次々と居場所を奪われていくようで、痛切でした。
除名はたしかに衝撃的でしたね。ただアーティストとしてメジャーデビューが決まっていたので、すぐに切り替えることもできましたが。
そのあとハーバードで現代音楽の世界と出逢い、五線譜に乗らない、人間が制御不能なランダムな音楽をありのまま受け取るという手法にしびれました。そういう過程が今の自分の思想的背景になっていると思います。
でも知的体力はなにも僕のような育ち方をしなくても、自分から未知のものに飛び込んでいくことでも得られると思いますよ。中国の旅の話をしましょうか。
シルクロード4000年の夢が覚めた
――どんな旅だったんですか。
僕はシルクロードに長年憧れていて、98年、35歳のときに初めて訪れることができたんですよ。でもそれが散々でね。
ガイドさんはとにかく絨毯を売りつけようとしてくる。敦煌に到着したらムード音楽がかかって、あるのは絨毯屋と売春宿ばかり。日本人観光客向けのテーマパークみたいな雰囲気でした。
1本電車を逃したら、ガイドさんの家に泊まることになり、「追加利用金が発生します。3000円です」。
――たまりませんね。
憧れていた世界が「なんだこりゃ」ですね。
偽スターバックスもすごかった。田舎に行けば行くほど、どんどん嘘っこスターバックスの度合いが激しくなっていって、最後は麦茶みたいなものをコーヒーだと言って出すのね。こういうのをずっと繰り返すと、中国に対する4000年の夢が覚めるわけです。
だけど逆にカオス過ぎて、めちゃくちゃ過ぎて面白くなっちゃうんですよ。日本に帰ってくると物足りなくなって、もう1回行っちゃった。