だからこそ、管理通貨制度ではお金の量を制御するために、通貨を発行する中央銀行と政府とを分離させています。これはまさに、先人の知恵です。

ポール・ボルカー元連邦準備制度理事会議長(2006年)。(写真=Kenneth C. Zirkel/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
ポール・ボルカー元連邦準備制度理事会議長(2006年)。(写真=Kenneth C. Zirkel/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

しかし、1970年代後半のアメリカでは、政治のプレッシャーに負け、お金を刷りすぎて世の中のお金がジャブジャブになってしまったのです。

1979年、イラン革命が勃発。これにより原油価格が高騰、急激なインフレが起こりました。これは私がアメリカに留学していた頃の話なので、よく覚えています。

この時、FRB議長だったのが、ポール・ボルカー氏でした。

ここでボルカー氏が打ち出した施策は「いくら金利が上昇してもいい。それによって景気が悪化してもいい。とにかく世の中に出回っているお金を回収することを優先する」というものでした。緊急施策が決定されたのが土曜日の夜だったことから、この施策は「サタデーナイトスペシャル」と呼ばれました。

FRBはインフレ退治を最優先する

強烈な量的引き締めにより、長期金利は20%に、一日の金利は24%にまで跳ね上がりました。当然のことながら金利がこれだけ上昇すれば、景気は大幅に下落します。

ただ、一時的な不況を容認してでも、インフレを退治しないとアメリカ経済は長期的には崩壊してしまう。その信念のもと、ボルカー氏はこの施策をやり遂げました。

その後、アメリカは1980年代初頭にかけて不景気にあえぐことになりますが、その後回復し、黄金時代を迎えることになります。当初は低かったボルカー氏の評価ですが、今では彼こそがアメリカ経済を救ったと評価されています。

藤巻健史『超インフレ時代の「お金の守り方」』(PHPビジネス新書)
藤巻健史『超インフレ時代の「お金の守り方」』(PHPビジネス新書)

今、アメリカで起きているインフレは、このくらいのことをやらないと収まらないと私は見ています。なにせ、当時より格段に多量のお金をばらまいてしまっているからです。コロナ対策のためとはいえ、財政ファイナンスをしてしまった後始末は大変なのです。

実際、日本ではほとんど話題になりませんが、アメリカではローレンス・サマーズ元財務長官をはじめとした多くの人が、ボルカー氏のサタデーナイトスペシャルに言及しています。

これ以上の景気悪化を容認するはずがないから、FRBも今後の金利上昇には慎重になるに違いない。マーケットにはこうした観測も見られます。

しかし、私はそうは思いません。

そもそも中央銀行とは、やる時にはそのくらいのことをやってでも、インフレ退治を優先するものなのです。

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