どんな人でも受け入れる歌舞伎町でも馴染めない

大量のカルビとハラミがテーブルに並んだ。

安部里穂子は小鉢3つを用意してそれぞれに辛口ダレ、醤油ダレ、レモンを入れてガツガツ食べ出した。中学生のときから援助交際し18歳でキャバ嬢、23歳で風俗嬢になっている。それから風俗をずっと続けるのは、そもそも風俗に向いていることを除けば、毎月膨大な食費がかかることが理由のようだ。

「私は歌舞伎町の近くで暮らしているのに、ホストにハマれなかった。みんなホストに狂っているのに自分だけホス狂いになれない。それは逆にずっとコンプレックスでした。歌舞伎町ってどんな人でも受け入れるってスタンスじゃないですか。私はそんな街なのに、ちょっと馴染めない。自分の居場所はどこにあるのって不安になることもあります」

彼女が暮らす北新宿は抜弁天と同じく、たくさんのホストやキャバ嬢、風俗嬢やホス狂いが暮らしている。最寄りはJR総武線・大久保駅だが、職安通りのガードを超えれば歌舞伎町となる。

彼女は頻繁に歌舞伎町のホストクラブやサパーに通っている。SNSで知り合って交流を続けるたくさんのホス狂いたちと仲良くするが、彼女自身はホス狂いにはなっていない。担当に入れ上げることはなく、一歩引いた立場でホストやホス狂い、歌舞伎町と付き合っている。

女子会では「おじさんたちからどうやって財産を奪うか」

「ホス狂いの女の子たちは無限にお金が必要なので、常にどうやってお金をつくろうか考えています。ホス狂い女子会みたいなのはよくある。基本的にお金の話ばかり。内容はエグいです。どこの風俗が稼げるとかいうレベルじゃなく、おじさんたちからどうやって財産を奪うかみたいなこと。彼女たちに狙われているのは、寂しいおじさん。40代、50代で未婚で優しそうな人をなんとか見つけて、“ガチ恋”をさせてお金を引っ張りたがっている」

結婚しない、できない男性は本当に増えた。2020年の生涯未婚率(50歳時の未婚率)は25.7パーセント(総務省調べ)であり、男性は4人に1人が結婚しない社会となっている。

この傾向はずっと続く。2040年、男性の生涯未婚率は30パーセントの水準に達すると予想されている。ちなみに半世紀前(1970年)の男性の生涯未婚率は3パーセント台。昭和から平成を経ている間に8倍以上も跳ね上がっている。

今回の取材でも、地下アイドルイベントで童貞の群れを目撃した。第二次ベビーブームに生まれた現在アラフィフの団塊ジュニア世代は、人口は多い。いま、中年男性で底なしの寂しさを抱える者たちは大量に存在している。

無限のお金を必要とするZ世代のホス狂いたちは、この底なしの寂しさを抱える中年男性たちの懐を狙う。