しかも、ネトフリの日本法人は、当事者能力が乏しく、放送界がこぞって抗議しても、のれんに腕押しで、「広告付きプラン」の世界展開は米国の本社で決定済みと説明するばかり。NHKや民放各局が強く求めた「広告停止」に対しても、本社の指示を仰ぐしかなく、「引き続き協議する」と応じるのがやっとだった。

ただ、さすがに放送界と全面対立するのはまずいと判断したのか、あくまで「緊急避難的措置」としてNHKや一部の民放の番組でCMを停止し、配信を続けるという窮余の策をとった。

「テレビ離れ」で安易に番組配信を止められない…

放送界が口をそろえて「遺憾」と言うのなら、直ちにネトフリから番組を引き上げればよさそうなものだが、そうは簡単にいかない事情がある。

「テレビ離れ」が広がる中、ネット配信の巨大プラットフォームは、NHKにとっても民放各局にとっても、魅力的な情報空間だからだ。

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まず、ネトフリの利用者は、地上放送ではなかなかリーチできない若年層が中心になっていることが上げられる。テレビは見なくても、ネットで見てもらえれば、番組の認知度はあがる。視聴率が命運を握る民放なら、広告収入にもつながるだろう。

日本の放送局が不得手な海外展開も、世界に展開するネトフリなら、容易に配信することが可能だ。各国の放送事情を踏まえて個別に番組を売り込むような手間と煩わしさは、一気に解消してしまう。

ネトフリの潤沢な資金も、ポイントだろう。高額といわれるネトフリ向けの番組の提供料や制作費は、一定の収入源になっているようだ。

放送界とネトフリとの蜜月は深まる一方だったのである。

もっとも、民放は、局によってネトフリとの付き合いの深さに濃淡がある。

フジテレビは、2015年にネトフリが日本に上陸した当初から協業し、ネトフリ向けにリアリティー番組「テラスハウス」や連続ドラマ「アンダーウェア」を制作、配信してきた経緯がある。こうしたこともあって、「広告付きプラン」に抗議したとたん、暫定的に広告が消えた。

これに対し、ネトフリのライバルである「Hulu(フール―)」と組んでいる日本テレビの番組は、CMがついたままだ。

このため、民放界が一枚岩となって、ネトフリと対峙たいじするのは難しそうだ。

基本戦略を大転換するネトフリに日本のテレビは抗えない…

ネトフリは、コロナ禍の巣ごもり需要もあって世界中で大幅に加入者を増やし、有料会員数が2億2000万人以上に膨れ上がった。日本上陸時は6200万人と言われていたから、7年余で3.5倍以上になった計算だ。

ところが、コロナ禍が一段落した2022年に入り、一転して会員数が減少に転じ、成長神話に陰りが見え始めた。

危機感をもったネトフリが、新たに打ち出したのが「広告付きプラン」なのである。大幅値下げで新たな顧客の獲得を図るとともに、広告収入に道を開く一石二鳥の「秘策」だった。