ネトフリは当初、「CMの表示はNHKと合意済み」としていたが、NHKが「事前の合意はなかった」と反論。両者の主張が食い違ったまま、しばらくしてNHKの番組はCMを外して配信されるようになった。

だが、そもそも公共放送が、ネットの有料配信事業者に番組を提供する必然性があるのかという指摘もあり、NHKのネット戦略に疑問が投げかけられた。

番組スポンサーとの競合を恐れる民放

一方、民放界も、驚きを隠せず、困惑と反発が広がった。

広告を収益の柱とする民放は、NHKと違って広告そのものに対するアレルギーはないが、ネット配信における広告のあり方はいまだ模索中だ。

日本民間放送連盟(民放連)の遠藤龍之介会長(フジテレビ副会長)は、「事前に十分な説明がなく、大変唐突で、進め方が非常に強引だった。放送するCMは、最終的に放送局がチェックすべきだという理念があり、CMも考査している」と。不快感をあらわにした。

民放キー局のトップも、番組の提供時点では想定していなかった事態に、口々に苦言を呈した。

石澤顕・日本テレビ社長「事前の説明が十分ではなかった。非常に遺憾で残念」
佐々木卓・TBS社長「説明を求め、広告を導入しないように強く主張していく」
篠塚浩・テレビ朝日社長:「そもそも広告がつくというプランでの配信を想定していなかった。広告付与を停止してほしい旨を申し入れた」
石川一郎・テレビ東京社長「コンテンツの扱いなどについて、きちんと調整せずに始めてしまった」
等々。

民放各局がもっとも危惧するのは、提供した番組のスポンサーとネトフリが独自に付けるCMの広告主が競合する恐れだ。出演者が専属契約を結んでいる企業とバッティングしかねない懸念もある。

ネトフリには通じない日本特有の商慣習

日本では、番組のスポンサーの広告料を制作費の一部に充てるケースも少なくないため、民放各局は、番組の中でのCMはもちろん、前後に流れるCMも含めて、ライバル企業と競合しないよう気を配っている。

ネット配信も同様で、民放共同配信ポータルサイト「Tver(ティーバー)」などに番組を提供する場合も、番組スポンサーと競合しないように一定のルールを定めて、放送局がCMを調整してきた。

それだけに、「ネトフリが付けるCMの基準がわからないので困った」と、意図しないCMが付きかねないことへの戸惑いは隠せない。

ところが、ネトフリには、こうした日本特有の放送界の商慣習は通じなかったようだ。

もともと、米国では、放送局と番組の制作会社が独立した存在であるため、日本のように番組スポンサーに配慮する必要はないという。