収益構造を「サブスクリプション(定額課金)」から「定額課金+広告収入」に移行する、つまり利用者からも広告主からもカネを取る最強のビジネスモデルを導入するという基本戦略の大転換である。
「2022年版情報通信白書」によると、21年の世界の広告市場は、コロナ禍の影響でネット広告費が3557億ドル(前年比32.7%増、掲載時の換算レートで39兆396億円)と急増、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費2787億ドルをはるかに上回った。
日本の市場に限っても、テレビの1兆8393億円に対し、ネットは2兆7052億円。18年に逆転して以来、その差は広がる一方だ。
ネトフリが、すでに大きな市場となり、さらに伸びが期待されるネット広告に狙いをつけたのは必然とも言える。
さらに留意しなければならないのは、「広告付きプラン」が単なるCMの配信にとどまらないことだ。その先に見据えているのは、会員ごとに異なるCMを見せるターゲット広告だろう。
個々の会員の好みや、性別、生年月日などの属性を把握しているだけに、番組に関連するCMの効果は飛躍的に高まるとみられる。それは、広告主に対し、強力なアピールとなることは間違いない。
そうなると、ネトフリが付けるCMはきわめて多岐にわたり、いちいちチェックすることは事実上不可能になる。番組スポンサーと競合するCMが大量に出回りかねず、民放界がもっとも懸念する事態が起きかねない。
もはやコップの中の争いをしている状況ではない
放送とネットの垣根がどんどん低くなる中で打ち出されたネトフリの新戦略は、世界を席巻しようとしている。
こうした中、放送行政を統べる総務省は、NHKのネット配信の本来業務化とか、ネット時代の公民二元体制のあり方とか、以前から問われているテーマを延々と議論しているばかりで、世界の潮流の大きな変化に、目を向けているようには見えない。
総務省の監督下にある放送界も同様で、目先の損得勘定にばかり捉われているように映る。
だが、もはやコップの中で争っている状況ではなくなってしまった。
今回の一件で、放送界は、巨大プラットフォームが頼もしい味方になる一方で、自らのコントロールが利かない事態を引き起こすことを思い知らされたに違いない。イーブンの立ち位置で対抗するすべはなさそうにみえる。
これからは、巨大プラットフォームとの付き合い方を真剣に考えてゆかねばならないだろう。気がついた時には、ネトフリの世界戦略に絡み取られ、身動きができなくなっているかもしれないのだから。