その影響もあったのかもしれない。2016年、「世界のベスト・バー50」を主催する「ウイリアム・リード・ビジネス・メディア」が、初めて「アジアのベスト・バー50(Asia's 50 Best Bars)」を発表すると、ベンフィディックは21位に選出された。それから、海外からの来店客が一気に増えた。
「日本だとあまり知られていないんですけど、海外では『世界のベストレストラン50』と同じぐらい、影響力があるんですよ。日本にも各地のバーを訪ねるバーホッパーっていますけど、外国人のなかにはこのランキングを指標にして世界のバーで飲み歩くツワモノもいるんです」
鹿山によると、海外では規模が大きなバーがほとんどで、大勢のお客さんに対応するためにスピード重視。事前にカクテルを仕込んでおき、注文が入ったらシェイクする店も多いそうだ。
一方、日本は「EST!」に代表されるような小箱が多く、注文が入ってからカクテルを作る。特にベンフィディックはお客さんの目の前でスパイスを挽いたり、蒸留を始めたりするので、カクテルを提供するまでに時間がかかる。外国人のお客さんにとってはその過程や手の込んだカクテルが斬新だったようで、おおいにウケたという。
鹿山の探究心は留まることを知らない。京都の古本屋で購入した「
世界的スターバーテンダーが来店
2016年のある日、いつものようにカウンターでカクテルを作っていた鹿山は、店に入ってきたひとりのお客さんを見て息をのんだ。
チャールズ・シューマン。そう、20歳でバーテンダーを始めた時に買った『シューマンズ・バーブック』の著者、ドイツ人のスターバーテンダーが、予約もなく、突然現れたのだ。
会ったことはなかったが、日本人なら「EST!」の渡辺さん、外国人ならチャールズ・シューマンというほど長らく畏敬の念を抱いていた鹿山は一目で気づき、「ああ! シューマンだ! わあ!」とかつてないほど胸が高鳴った。憧れのプロ野球選手に出会った野球少年のような気分だった。
席に案内した際、「紹介されてきたんだ」というシューマンの言葉を聞いて、合点がいった。数カ月前、フランクフルトのバーテンが来店した際に、「僕はシューマンを尊敬してるんだ、若い時に彼の本も買ったし、読んだんだよ」と話した。そのバーテンがドイツに帰国してから、シューマンにベンフィディックと鹿山の話を伝えていたのだ。